前回の記事で自民党が発行した憲法改正推進マンガが卑怯な印象操作をしていることを紹介しました。今回はより詳しく見てみましょう。 (マンガはこちらから読めます) 

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まず、この憲法改正推進マンガで注目したいところは、憲法の条文の引用がたったの3か所しかない点です。

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↑64頁もあるマンガで憲法の引用があるのはたったの3か所。


憲法の条文の具体的にここがどう、という指摘はほとんどないのです。このマンガの設定で、この「ほのぼの一家」のお母さんは「マンガしか読まない」ような人なんだそうですが、このマンガの中でも憲法を実際に読もうとはしません。結果、具体性を欠いた、非常に漠然としたイメージに基づいて憲法批判が行われることになります

(余談ですが、この家族は「ほのぼの一家」と書いてありますが、お母さんとおじいちゃんはすぐに怒って大声を出すし、すぐに「ええっ!?」と大げさに驚くし、どの辺がどう「ほのぼの」しているのかは全く不明です。恐らく「ほのぼの」という言葉を使うことで憲法改正のイメージを和らげる意図があるのでしょう。「ギスギス一家の憲法改正」だとイメージ悪いですものね)

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(↑あんたらのどの辺が「ほのぼの」してるんだ…?)

さて、この「ほのぼの一家」、作品の都合上しょうがないのでしょうが異常なまでに無知な一家が主人公です。なんたって「70年前はインターネットもなく電話も村に一つ、みんな手紙だった」と言うと「ええっ!」「江戸時代ですか?」と意味不明なことを言うぐらいです。こんな無知な一家に憲法語られたくないな…。マンガの都合なので置いておくにしても、これはちょっと…。おそらく「江戸時代ですか?」というセリフも、「今の憲法は時代遅れだ」という印象を与えたいがための誇張表現でしょう。

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(↑なんだこの反応…。昭和なめるなよ…ってあんたらケータイがない時代経験してる世代だろ? 特にほのぼの一郎さん、あんた35年も生きてきてそこまで無知なの?)

この後、「マンガしか読まない」程度の知識しかないお母さん、ほのぼの優子さんは、無知丸出しで意味不明な憲法批判を繰り広げます。まず、通信についてこのように言いだします。

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憲法の条文の何の引用もなしに、日本国憲法がスマホやケータイが発展した今の社会に対応できていないかのような批判を繰り広げていますが、もちろんデタラメです。そりゃあ電話がケータイやスマホになったりインターネットができたりしたからって、結局は通信の形が変わっただけの話ですからね…。

このマンガではあたかもインターネットが発展した現代に日本国憲法が対応できていないかのような書き方がなされていますが、そのような事実があるでしょうか? 例えば不正アクセスについては「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」というものが存在します。現行憲法下で作られた法律です。

「プライバシー」や「ストーカー」という言葉も当時はなかったと言っていますが、じゃあ日本国憲法がプライバシー侵害やストーカー問題に対応できていないかというとそんなことなく、例えば憲法第21条では「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と書かれており、メールやラインの盗み見などは政府であっても出来ません。プライバシーの権利は憲法第13条により保護されると解されています。

第十三条  

・すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

ストーカーについてはストーカー規制法が平成12年に成立していて、これは憲法違反ではないという最高裁判決が平成15年12月11日に出ています。日本国憲法はプライバシーの権利にもストーカーにも対応できているのです。

このマンガでは、あたかも現行憲法がネット社会や環境問題、ストーカー問題等に対応できていないかのような書き方がなされていますが、どんな問題が生じているのかという点は一切何も書かれていません。具体性を欠いたまま批判するというのは卑怯な行為だと思うのですが、このマンガは基本的にこのように漠然としたイメージだけ(この場合は「古い」というイメージ)だけで、具体的な指摘がほとんどないまま憲法批判が展開されます。

この「古い」という漠然としたイメージのまま、「今の憲法ってエコじゃない」などと意味不明な論理が展開されます。流石「マンガしか読まない」奥さんの言うことは発想の斜め上を超えていきます。

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(↑現行憲法が環境問題に対応できないかのような意味不明な批判)

このマンガの作者(および自民党)が一体何を考えているのか全く分からないのですが、憲法の中でも特に有名な第25条にこうあります。

第二十五条  

・すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

・国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

ご覧のとおり、憲法は国民の「健康で文化的」な生活を保障していますし、はっきりと「公衆衛生の向上及び増進」という言葉が用いられています。これに基づいて、1967年、つまり今から50年も前に「公害対策基本法」が制定され、1993年には「環境基本法」が施行されています。現行憲法は環境問題に対応できているのです。一体このほのぼの一家は憲法のどこをどう解釈して「エコじゃない」などと言っているのでしょう? 具体的な条文の引用は一切ありませんし、一体日本国憲法のせいでどのような環境問題が起きているのか、何の指摘もありません。

一体このほのぼの家族はどんな条文なら満足するんでしょう? 憲法の条文に一々排ガスの規制値でも書けとでも言いたいんですかね? そんなのは憲法じゃなくて法律で決めることだと思うんですが。もしも今の日本が環境問題に対応できていないとしたら、それは憲法のせいじゃなくて政権与党のせいでしょうね

ついでに言っておくと、このお母さん「ロハス」なんて言っていますが、意味知ってるんでしょうか? ロハス(LOHAS)って Lifestyle Of Health And Sustainability の略で、「健康で持続可能な生活」って意味なんですが、まさに25条でバッチリと保障されているんですが。このお母さんはマンガしか読まないし、日本国憲法作成過程を全く知らないようなので、25条も読んだことがないのでしょう。

この後もほのぼの一家は無知丸出しで持論を展開します。よく言われる「変な日本語問題」についてはこのように書かれています。

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(このお父さん(ほのぼの一郎)は「日本の憲法にアメリカの憲法が入ってんの?」などと驚いていますが、一体小中学校の社会科で何を学んできたのでしょう…。マンガ的演出とはいえ、無知にもほどがある)

ここで「そもそも憲法って変な日本語が多くない?」「特にこの前文」と言っていますが、具体的にどこがどのように変で翻訳口調なのかは、何の指摘もありません。「変だ」っていうならどこがどのように変なのか指摘しろよ…。

世間で良く言われるところとしては、「この憲法を『確定』する」のところは「『制定』する」であるべきだなんてものがありますが、別に言葉選びの範囲内に思えますし、翻訳口調でもないでしょう。

また「諸国民の構成と信義『に』信頼して」という箇所は「『を』信頼して」だという指摘もありますが、戦前の文書にも「~に信頼」という表現は登場します。

明治37年2月14日
海軍大臣陸軍大臣へ賜う勅語 

朕ハ卿等ノ忠誠勇武ニ信頼シ其目的ヲ達シ以テ帝国ノ光栄ヲ全クセムコトヲ期ス
参照) 

明治42年
統監子爵寺内正毅ヲ京城派遣ニ付御新書案大要ノ件 

陛下ハ正ニ之ニ信頼シテ其蓋言ヲ聴納セラレルコトヲ望ム
参照) 

昭和5年2月24日
千九百三十年「ロンドン」海軍条約ヲ批准セラル 

本条約ノ目的ヲ達成スルニ遺算ナキヲ期ストノ言責ニ信頼シテ之ヲ可決セリ
参照) 

昭和14年2月24日
内閣訓辞号外 

報効ノ誠ヲ尽サントスルに当リ、深ク官吏ノ協戮ニ信頼ス
参照) 

昭和20年2月27日
軍需産業企業ノ体制及運営ニ関スル件


国家ハ全国民奉公ノ赤心ニ信頼シ 
其ノ総力を必勝ノ一点ニ結集センコトヲ期待ス
参照) 

探してみるとまだまだ出てきます。これらの文章を見る限り、この「~に信頼」という表現が「翻訳口調のおかしな日本語」という指摘は当てはまらないと言えるでしょう。

また、前文以外の「~は、これを…」という表現がしばしば「おかしな日本語」としてやり玉に挙げられることもあるようです。9条の「国の交戦権は、これを認めない」みたいなやつですね。自民党の憲法改正草案だとこの「~は、これを…」という箇所は悉く直されているので、恐らく自民党はこれも「翻訳口調のおかしな日本語」と認識しているのだと思いますが、果たしてこれは翻訳口調なのでしょうか?

答えはノーです。大日本帝国憲法を見ればわかります。

大日本帝国第一条

大日本帝国 万世一系ノ天皇 之ヲ統治ス

いきなり第一条で「~は、これを…」が登場しました。まだまだあります。

大日本帝国第二条

皇位 皇室典範ノ定ムル所ニ依リ 皇男子孫 之ヲ継承ス

大日本帝国第十四条

戒厳の要件及効力 法律ヲ以テ 之ヲ定ム

大日本帝国第五十七条

司法権 天皇ノ名二於テ 法律ニ依リ 裁判所 之ヲ行フ

日本国憲法の「~は、これを…」という表現が「翻訳口調のおかしな日本語だ」と批判する人は、大日本帝国憲法を見たこともないのでしょう。それとも大日本帝国憲法も英語から翻訳したんですかね?

いずれにせよ、変な日本語だというのならば、具体的箇所を指摘するのが筋だと思いますが、このマンガはそのようなことはせずに「変な日本語だ」と漠然と批判するだけです。そして具体性を一切欠いたまま、「日本語が変である」「それはアメリカ人が作ったからだ」という方向に持っていき、前回の記事で紹介した、史実と見せかけたフィクションにつなげるのです。私には実に卑怯な手法に見えて仕方がありません。

それで第一章の最後はこんなシーンで終わります。

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「戦争体験者千造おじいちゃんから聞いた話は
 パパとママには相当ショックだったようです」


「戦争体験者…」などと書いていますが、このおじいちゃん戦争の話など欠片ほどもしていません。

「戦争体験者」と書いてあると、あたかもおじいちゃんの実体験に基づいたリアルな真実味の話かのような印象を受けかねませんが、実際にはこのおじいちゃんがした話とは、憲法作成過程の概要を、勝手な想像を交えて話したに過ぎないのです。しかも「ショッキング」な箇所は、その「勝手な想像」の部分だったりする…。
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(↑「戦争体験者」であるおじいちゃんが勝手に想像したGHQ内部の憲法作成過程。
 GHQ内部のシーンは全ておじいちゃん(自民党)の想像です。
 マンガには「事実は小説より奇なり」なんて書いてありますが、
 この辺のシーンは
事実でさえありません。)

こんなもん「戦争体験者」じゃなくても、中高の歴史教科書を読めば十分できる話です(これでショックを受けるって、このパパとママはどれだけ無知なんだ…)。そんな中学か高校レベルの知識に勝手な解釈によるフィクションを交えて語ったものを、「戦争体験者から聞いた話は…」みたいに書いて、これまた実に表現がズルっこいですね。しかも全然ショックでも何でもないことを「相当ショック」な出来事であるかのように書くのもズルい印象操作でしかありませんね。

この自民党の憲法改正マンガの卑怯な印象操作はこの後もまだまだ続きます。

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