今回の記事は上のような愛国カルト云々とは違い、あくまで私(桑原一馬)の私見であって、反対者を「愛国カルト」扱いするようなつもりは全くないので誤解しないでほしいのですが、流石にこれほど安保関連を取り上げて自分の考えをちゃんと表明しないのも良くないかと思うので、これに関してだけは表明しておきます。

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==1.憲法問題==

私は基本的に今回の安保法案には反対です。理由の一つは憲法問題。60年以上続いた憲法解釈を一政権が閣議決定で変えられるのであれば、他の憲法解釈も政府がその時の都合に合わせて変えることができるようになってしまうからです。それでは政府が憲法より上に立つことになってしまい、そんな国は私は中国と北朝鮮ぐらいしか知りません「立憲主義」の立場から、集団的自衛権には反対です。本当にこの法案が日本のために必要ならば、改憲の手続きに則って、国民の支持を得て憲法を変えて法案を通すのが筋だと考えています。

==2.安全性==
 
次に、この安保法案が日本の安全に資するとは思えないこと。今回の安保法案は「アメリカが日本を守れるようになる」ためのものではなく、「日本がアメリカを守れるようになる」ためのものです。どうしてそれで日本の安全が増すのかどうにもわからない。「日米関係が強固になれば安全が増す」と政府は言いますが、どうも自民党や「安全が増す」と考えて賛成されている方は、逆に「この法案のせいで日本が攻撃される」という可能性を考えていないように思えます。

前回の記事で「中国が反対している」ということを、「中国が嫌がると言うことは、日本を攻めづらくなるという事だから安全は高まる」と考えて賛成する人がいるということを紹介しましたが、むしろこれこそが問題だと思うのです。

今回の安保法案については必ず「中国の脅威」が取りざたされます。特に日本については尖閣諸島防衛が焦点の一つになるわけですが、2012年に尖閣の国営化をするまでこんな緊張状態は全く生じていなかったのです。1972年の国交正常化の際にも尖閣領有問題は棚上げされ、中国は特別ちょっかいを出していなかった。ところが国有化で日中関係は出口の見えない泥沼化し、さらにその後の安倍政権への反発もあってか、中国は防空識別圏の一方的変更という行動に出ました。

私も当然尖閣は日本領だと思っていますが、日本からすれば「自衛」のための行動でも相手国には「挑発」と映ることがあります。中国の横暴な行動を放っておいていいわけでもありませんが、わざわざこちらから相手に不信感を抱かせる行動を行うべきでもない、と私は考えています。実際に、尖閣を守るために尖閣国有化をしたら、尖閣はこれまでにない緊張状態にさらされるようになってしまいました。

安保法案について、アメリカの同盟国や親米国が賛同しているのは前回記事で述べた通り当たり前です。それより、気にするべきは中国に不快感や不信感を与えてしまっていることで、前回記事で紹介したような人はこれをむしろ賛成理由にするわけですが、これは緊張が高まることを意味し、日本の安全に期するどころかマイナスなのではないかと私は考えています。

==3.アメリカとの関係悪化の
リスクを冒してまで派兵を断れるか==

そんな緊張が高まったところで何かあったらどうなるか。どうも自民党の話を聞く限り、自民党は「日本を守ってくれるアメリカを助ける」ことしか想定しておらず、この安保があるせいで攻撃される可能性を考えていないのではないかと思えます。

例えば先日安倍総理はこの安保をヤンキーに絡まれた時に例えました。例の「友達の麻生くんが不良に絡まれたら一緒に戦う」っていうあれですね。国と国との戦争をヤンキーの喧嘩に例える幼稚さに私は絶句してしまったのですが、それはそうと、この時総理は「普段から『安倍を殴ってやろう』と思っているヤンキーが、安倍を守る麻生君に殴りかかったら、一緒に戦う」という話でした。つまり、これは相手が「安倍を殴ってやろう」と思っている、すなわち最初から日本を攻撃することが目的であることを前提にしています。

ところが、今回の安保では別の問題が生じます。日本が関係ないのに殴られる可能性です。

1つ目は自分から積極的に殴りに行く場合。

政府は今回の安保が成立しても「ベトナムやアフガニスタンのようなものに参加することはない」と答弁しています。おそらくベトナムやアフガンが「間違った戦争」という認識が現在一般的であるからだと思うのですが(「間違っていない戦争」があるかどうかは別として)、ベトナム戦争が「間違った戦争」であるというのは、戦争が終結した今だからこそ言えることです。

「一国が共産化すると周辺国も次々と共産化する」という「ドミノ理論」が信じられていた1960年代においては、ベトナム戦争は当初はアメリカにとっては「正義の戦争」であり、「共産化から周辺国及びアメリカを守る」ための「自衛戦争」でした。ベトナム戦争には共産主義との戦いだけでなく、アメリカとの利害関係も絡み多くの国が参加しました。例えば韓国は米国からの支援が欲しかったこともあり派兵しています。当時集団的自衛権が行使可能であったならば、米国の要請があれば、ドミノ理論を信じて(またはドミノ理論を理由に)、「日本の共産化という存立危機事態を回避する」という題目で参加していなかったとは限りません。

アフガンやイラクについても、日本は集団的自衛権が憲法上行使不可能であるため「人道支援」という形でしか参加していませんが(実際には戦場だったらしいけど)、ドイツやイタリアは日本によく似た「平和憲法」があるにもかかわらず、イラクやアフガンで、「安全」と言われた「後方支援」に参加し、それぞれ50人以上が死亡しています。

これまではアメリカから派兵要請があろうが、「憲法上できません」と断ることができましたが、今後は一体どういう理由で断るのでしょう? 「憲法上できない」ならアメリカも納得せざるを得ませんが、派兵要請をしても、「憲法上派兵できるのに派兵しない」という回答でアメリカが納得するでしょうか?

今回の安保法案で集団的自衛権が行使可能になれば、日本はアメリカの派兵要請を断る明確な理由を失います

さて、日本政府は「ベトナムやアフガニスタンのような戦争に日本が参加することはない」と言っていますが、もし派兵要請があれば、日本はどう言って断るつもりでしょうか? 今回の政府の説明でも、日米の関係強化を繰り返し強調しています。ところが、憲法上派兵できるのに、「我が国は関係ないから派兵しません」という説明でアメリカが納得するでしょうか? 「お前の国だって関係ある」と言われるに決まっていると思うのですが。

アメリカが派兵要請をしてきて、憲法上派兵が可能になっているにもかかわらず派兵を断れば、米国は日本に対する不信感を顕にするでしょう。「何のために安保法制作ったんだ。期待して損した」と。この安保法制が成立した状態で米国の派兵要請を断るということは、日米関係の悪化を意味します。つまり、この場合、日米関係を強固にするために安保法制のせいで、日米関係が悪化するという状況が生じるわけです。「日米関係」の重要性を強調する日本政府が、その関係悪化のリスクを冒してまで米国からの派兵要請を断ることができるでしょうか? 私は相当困難、または不可能だと思います。

日米関係を強固にするはずの安保法制のせいで日米関係が悪化するなんて矛盾は政府は絶対に避けたいでしょう。じゃあ、矛盾じゃなくすためにはどうするか。ベトナムのような事例であっても「存立危機事態」と認定して派兵するしかありません。

もちろん、ここで国民がどんなに「これのどこが存立危機事態だ!」と騒いでも全くの無駄です。何故って今の政府を見たらわかりますよね。国民の「違憲だ」とか「説明不足だ」という意見に全く耳を傾けない。ひとたび「存立危機事態」と認定したが最後、どうしてこの政府が「存立危機事態ではない」という国民からの批判に耳を傾けますか?

これが今回の法案が「戦争法案」と呼ばれる理由です。支持派からは「戦争法案」というのは「レッテル張り」に過ぎないと言われますが、十分アメリカの戦争に参加する可能性がある法案だと思います。

==4.相手は日本政府の説明を信じない==

日本が米国の派兵要請を断れるかどうか、という問題を上に書きました。では、逆に「ベトナムやアフガニスタンのようなものに参加することはない」という日本政府の答弁を信じるとしましょう。米国からの派兵要請があっても、「存立危機事態」でない限り参加しない。だから日本が米国の戦争に巻き込まれ得ることはないのだ、と。

しかし、そんな日本の事情を相手国が加味してくれるでしょうか? これが問題の2つめ、相手が殴りに来る場合です。

例えば、万が一、例えば台湾問題で中国が軍事行動に出たとします。もしそうなったら当然アメリカは出動するわけですが、米国の派兵要請があっても、日本政府は毅然とした態度で「我が国の存立危機事態ではない」と断ったとしましょう。これが今の自民党の説明ですね。「ベトナムやアフガニスタンのようなものに参加することはない」と言っていますから、自民党としては「慎重に行動を検討しますので、他国の戦争に巻き込まれることはありません」という説明を行っているわけです。

これを完全に信じるとしましょう。

「日本は自国の存立危機事態が生じない限り行動しないので、日本が積極的に戦争に参加することはありません。従って戦争法案ではありません」

我々国民は日本政府の説明を信じたとします。


相手国は信じません。


中国が台湾なりアメリカなりと武力衝突をしたとします。日本は「存立危機事態」ではないので参加するつもりはありません。しかし、中国が「集団的自衛権があるから、いつ日本が『存立危機事態』だと言って介入してくるわわからない。やられるぐらいなら先に攻撃してしまおうと考えて、日本は介入するつもりがないのも関わらず、日本を攻撃対象にしないとは限らないのです。

この場合、集団的自衛権があるせいで戦争に巻き込まれたことになります。安倍総理の説明だと、「日本を殴る」つもりの国が、日本を殴る過程でアメリカを殴ることしか想定していないように思えます。そして、日本が自ら「存立危機事態」と判断しない限り、日本が戦争になることはない、と。

しかし、実際には日本は「存立危機事態」なんて考えていないし介入するつもりもないのに、相手国が日本をアメリカの付属品のように見なして攻撃してこないとは限らないのです。ただでさえ、もしもの時には日本の米軍基地が目標になって日本が攻撃されるんじゃないか、という心配があるのに、集団的自衛権で日本がアメリカを守れるようになれば、日本自身に介入の意思がなくても、攻撃対象になる可能性がないとは全く言えないのです。

今は中国の方には失礼かと思いながらも中国を例に出しましたが、これがIS(「イスラム国」)のような存在になると、それこそどうなるかわかりません。ただでさえ「人道支援」と表明したスピーチについて、ISは「日本は水から十字軍に参加した。これからは攻撃対象だ」と表明しました。日本がいくら「介入の意思なし」と言ったところで、「集団的自衛権」がある限り相手は信頼しません。

==5.リスク説明==

以上のことから、政府もこれ以上「リスクは減る」というような説明をするべきではありません。リスクについては「変わらない」と言ったり、既に「リスクは十分高いからこれ以上高まらない」と言ったり(凄い理屈だ…)、「リスクは高まる」と言ったり、「リスクはむしろ減る」と言ったり、政府の説明ははっきりしません。(以前の記事参照

例えば米軍基地については、万が一の有事の際に日本の米軍基地が攻撃されて日本が戦闘に巻き込まれるリスクもあるわけですが、そのリスクを取ってでもアメリカに守ってもらうメリットの方が大きい、と説明することができます。(その説明で納得するしないはさておいて)

この法案で生じうるリスクに向き合って、それを説明したうえで、
「そのリスクをとってでも、それを上回るメリットがある」
とか
「○○のようなリスクは増えるが、△△のようなリスクは減るので、全体としてリスクは減る」
とかのように説明するべきだと考えます。


今のように、リスクや生じうるデメリットと向き合わないまま、メリットだけに目を向けて「リスクは減る。戦争法案というのは曲解だ」と幾ら言ったところで、国民の信頼を得られることはないと思います。

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