前回前々回その前と、産経新聞が掲載した卑怯かつ稚拙な安保反対デモ矮小化記事を紹介しましたが、スポーツ欄でも産経新聞が驚くべき記事を掲載していましたのでご紹介します。

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産経新聞HP

>>目に余る米国球児のゴーマンぶり!
>>派手なガッツポーズは五輪に相応しくない 


先日まで行われていた、18歳以下の野球ワールドカップの米国チームの態度を「目に余るゴーマン振り」だと非難しています。新聞の見出しに「傲慢」ではなく、恐らく小林よしのりの影響であろう「ゴーマン」と書いてしまうあたり、一般紙と言うよりスポーツ新聞か何かのように思えてしまいますが、それはそうとして内容を見てみましょう。
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>>この大会を通じて高校生世代の野球観のギャップに
>>あきれ返ったファンは少なくない。

>>最後まで礼儀正しく、節度をもって戦った日本の球児に比べると、
>>優勝した米国代表は喜怒哀楽を前面に出し、
>>相手チームを挑発するパフォーマンスもあった。
>>野球発祥の国からやって来た選手の「不遜」とも取れる態度は目に余った。



「あきれ返ったファンは少なくない」と言っていますが、この産経記者以外にそんなにあきれ返った人がいるのか私には疑問です。産経は、日本は節度を持ち、米国は節度がなかったと非難していますが、「喜怒哀楽を前面に押し出す」ことの何がいけないのか、産経の記事には具体例として対韓国戦での、9回表に米国が逆転ホームランを打った際の米国チームの喜び方について言及しています。


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>>暴動でも起きたかのよう

>>米国チームの過度な歓喜ぶりを見せつけられた
>>韓国側のショックは推して知るべしである


その時の米国チームの喜び方とは、このようなものでした。



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ベンチから飛び出して大喜びしていますが、仲間の逆転HRを全員で全身で喜びを表して迎えることが、そんなに非難されるようなものですかね? ベンチから飛び出してはいけないという規定があるならともかく、「野球規則に過度のパフォーマンスを禁じる文言はない」とあるので、恐らく禁止されてはいないのでしょう。


サッカーのゴールシーンの喜び方なんてこんな感じのことが多いですし、2001年に近鉄が代打逆転満塁ホームランでパ・リーグ優勝を決めた時なんて、下の写真のような感じでした。プロ・アマの違いや、相手の攻撃が残っているかサヨナラかの違いはあるとはいえ、「喜怒哀楽を前面に押し出し」たり「過度な歓喜ぶり」がいけないのなら、これもいけないことになりそうです。



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↑まだホームインしてないから一応試合中


まあ、このへんの感じ方は人によるでしょうが、この後の産経新聞の迷走ぶりは驚くべきものでした。


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>>五輪でガッツポーズをすることは
武道家として恥ずかしい


>>さきのU-18の米国チームに当てはめれば、
>>(武士道の)残心のかけらもないことが分かる。



なんとアメリカの野球チームに武道、武士道を求めだした!!


野球は武道じゃないだろ! 一体何を考えているのか…。この大会は武道の大会でも、日本の高校野球でもなく、Baseball World Cup です。アメリカ発祥のスポーツなのだから、むしろアメリカの態度の方が野球におけるスタンダードなのだとも考えられますし、相手チームを貶したなら言語道断ですが、自分の仲間の逆転ホームランを全身で喜ぶことが、「傷心の韓国チームに対する配慮を失って」いることになるでしょうか? これが柔道や剣道や空手ならまだわかりますが、何故米国産スポーツで、米国チームの態度に武士道を当てはめて非難するのか、全く理解できません。少なくとも、アメリカのベースボールに武道や武士道を求めるこの記事は、「節度ある」記事でもなければ「周りを意識して行動した」記事でもないですね。


ついでに言うと、まだ1点逆転されただけで、9回裏の攻撃が残っている韓国チームについて、「ショック」を受けていると言うのなら理解できますが、「傷心」しているというのはかなり失礼な言い方だと思うのですが。武士道精神などなくても、スポーツマンとしての心構えさえあれば、逆転されたって「傷心」せずに裏の攻撃での再逆転に向けて前を向いているはずですからね。


そして最後には、2020年の東京五輪大会全体に武士道を求めだすのです。


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>>武士道の国で開催される東京五輪を意識するのは、
>>日本人よりも外国人である。

>>武道が国際的に普及する中、
>>東京五輪で派手なガッツポーズは似合わない

>>日本の全選手が「残心」を肝に銘じることで、
>>海外の選手の心に何かがともり、
>>「勝利至上主義」に拍車のかかる五輪に
>>変化がもたらされるかもしれない



何で五輪全体を武道化するわけ?

「武道が国際的に普及」しているから、東京五輪で派手なガッツポーズは似合わない、というのは全く論理性が理解できません。むしろ五輪は国際スタンダードに合わせたっておかしくないですし、相手選手をリスペクトのは武士道のみならずとも「スポーツマンシップ」にも含まれており、日本の専売特許ではなく国際的に当然のことです。


また、サッカーのようなスポーツではゴール後の派手なガッツポーズやパフォーマンスが期待されている面もあり、それがスポーツマンシップに反したり、相手へのリスペクトに欠ける行為だとは見なされません。

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(↑産経記者の感覚では、カズダンスも「目に余る」「ゴーマン」で「不遜」な行為のだろうか?)


この記者が武士道を素晴らしいものと思うのは勝手ですが、この記者の書き方は、明らかに「武士道の文化は他国の文化より優れている」という書き方です。他国の「喜怒哀楽を前面に押し出す」形よりも、武士道の「残心」を優れたものと見なしていないと、こんな記事は書けません。


しかし、文化に優劣をつけるなど、偏狭なナショナリズムと言わざるを得ません。このような自己の価値観の絶対視や価値観の押しつけの方が、よっぽど「ゴーマン」であることは言うまでもないでしょう。2020年に五輪を開催する国ならば、自国内はもとより、世界各国の多様な価値観を偏見なく受け入れるべきであり、自国の武道や武士道の価値観を押し付けるような行為はまったくふさわしくありません。


東京五輪が、日本の凄さを外国に見せつけたり日本の価値観を他国に押し付けたりすることを目的とした「愛国五輪」ではなく、世界各国が、派手なガッツポーズを含めた価値観の多様性を学び、リスペクトしあえる平和の祭典になることを望みます。


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