(※2016年3月1日、一部加筆修正)
「ヘイトスピーチ」の規制問題がここ数年脚光を浴びるようになりましたが、古森義久という、国際教養大学客員教授で、産経新聞ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員を務めている人が、多くの愛国カルトさんやネトウヨさんたちと共通すると思われる意見を書いていたので、紹介しておきたいと思います。タイトルはずばり
「『ネトウヨ』はヘイトスピーチである」
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>>たとえば「ネトウヨ」という言葉がある。(略)

>>ネトウヨなどという言葉を使えば、使った側の軽蔑や憎悪や憤慨がにじむ。(略)

>>さて以上の前提を基にヘイトスピーチとは何かをみてみよう。
>>種々の定義づけがあるが、おおまかな総括は以下のようになる。 

>>「人種や宗教、思想、性別などを理由に特定の個人や集団をおとしめ、
>>憎悪や怒りを生ませる言葉」 

>>この基準を適用すれば、「ネトウヨ」も確実にヘイトスピーチとなる。(略)

>>だから「ネトウヨ」という言葉はヘイトスピーチだ! 

>>さてこの主張に「ネトウヨ」という用語を普通の言葉のように使っている方々はどう答えるだろうか。 


「どう答えるだろうか」とあるので、敢えてこう答えさせていただきたい。バカと。

ここまで理解力のない人間が「ジャーナリスト」を名乗っていいものだろうか。



==各辞書の「ヘイトスピーチ」の定義づけ==

今回は敢えて「愛国カルト」ではなく「ネトウヨ」という言葉を使わせてもらういますが、ネトウヨの皆さんがよく言う言葉ですね。「差別主義者を差別するな」と。この古森という人は、大学の客員教授や新聞の論説委員を務めているにもかかわらず、発想レベルはネトウヨの皆さんと変わらないようです。

まず、「ヘイトスピーチ」の定義を考えてみましょう。

古森氏は、「人種や宗教、思想、性別などを理由に特定の個人や集団をおとしめ、憎悪や怒りを生ませる言葉」としています。ここで古森氏は「思想」を入れていますが、例えばdictionary.comでは、

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"speech that attacks, threatens, or insults a person or group on the basis of national origin, ethnicity, color, religion, gender, gender identity, sexual orientation, or disability."
出身国、民族、肌の色、宗教、性別、性同一性、性的指向、または障害に基づいて、個人や集団を攻撃したり、脅迫したり、中傷したりする言説)


とされていて、「思想」は入っていません。

オックスフォードの辞書
では、このようになっています。

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"Speech expressing hatred or intolerance of other social groups, especially on the basis of race or sexuality; hostile verbal abuse (though the term is sometimes understood to encompass written and non-verbal forms of expression)."
(他の社会的集団に対する憎悪や不寛容を表現する言説。特に人種や性別に基づく)


ケンブリッジの辞書ではこうなっています。
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​public ​speech that ​expresses ​hate or ​encourages ​violence towards a ​person or ​group ​based on something such as ​race, ​religion, ​sex, or ​sexual ​orientation (= the ​fact of being ​gay, etc.):
人種、宗教、性別、性的指向などに基づき、個人や集団に対して、憎悪を表現したり、暴力を助長したりする公共の場でのスピーチ)

他にもコリンズウェブスターなど、英米の有名辞書を調べてみましたが、「思想」を入れているものはありませんでした。

また、学生向け辞書ですが、『ジーニアス』(大修館)で hate speech を引くと、「人種・宗教・性差別に基づく)攻撃スピーチ」とあり、『リーダーズ』(研究社)では「人種・宗教・性別・性的指向などの違いに由来する憎悪感情がもととなって個人や団体を攻撃する演説」とされています。

国語辞典を見てみましょう。『デジタル大辞泉』では「特定の人種・民族・宗教・性別・職業・身分に属する個人や集団に対してする、極端な悪口や中傷」とされています。

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『日本大百科全書』では「特定の個人や集団、団体などの人種、宗教、民族的な文化などを差別的な意図をもって貶める言動」とされています。

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調べた中で、「思想」が入っていたのは、知恵蔵miniだけでした。

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>>「憎悪にもとづく発言」の一形態
>>定義は固まっていないが、
>>主に人種、国籍、思想、性別、障害、職業、外見など、
>>個人や集団が抱える欠点と思われるものを誹謗・中傷、貶す、差別するなどし、
>>さらには他人をそのように煽動する発言(書き込み)のことを指す。


これは2013年2月の段階のものらしいですが、その3カ月後、2013年5月にはこのようになっています。

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>>憎悪に基づく差別的な言動。
>>人種や宗教、性別、性的指向など
>>自ら能動的に変えることが不可能な、あるいは困難な特質を理由に、
>>特定の個人や集団をおとしめ、
>>暴力や差別をあおるような主張をすることが特徴。


定義に「差別的」という言葉が入り、判断材料が変わっていますね。

マーティン・ルーサー・キング牧師の演説にはこうあります。

"I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin, but by the content of their character."
(私には夢がある。いつの日か私の4人の子供たちが、肌の色ではなく、人格によって判断される国に住むことだ)

個人の人格によって、相手を判断することは差別でも何でもなく、当たり前のことです。人格とは、どういう思想を持っているかと、ほぼ同じことでしょうから、相手個人の思想を批判をすることは、差別でもなければ、ヘイトスピーチでもありません。

(※ただし、思想によって政治的、経済的又は社会的関係において、相手を不当に扱うことは、日本国憲法14条にもある通り、許されません。例えば、相手の能力ではなく、政治思想のせいで雇用しない、なんてことがあれば、不当な差別となります)

もしも、相手の思想に対する批判が許されないのであれば、それこそ言論弾圧になってしましまいます。思想に対しては、批判の自由があってこそ、言論の自由が成り立つのですから。

以上、定義を見てきましたが、古森氏のように「思想」を含んでいる定義は殆どないことがわかります。古森氏の問題点は、これがまず一つ。

==そもそも「ネトウヨ」は「思想」か==

ただ、思想に対してなら、どんな侮蔑的な表現を使おうと「ヘイトスピーチ」に当たらず問題ない、というわけでもないのも事実です。

例えば、ソ連のような共産主義国家では、「資本主義の豚」なんて表現が存在しましたが、これはヘイトスピーチと見なされる可能性が高いでしょう。同様に、共産主義者に対し、「アカは日本から出ていけ」なんて発言は、ヘイトスピーチに当たりそうです。どちらも批判の範囲を超えて、ただの中傷で、それこそ最初から「憎悪や怒りを生む」ことだけを目的にしているわけですからね。そのうえ、どちらも実際に、政治的、経済的又は社会的関係において、相手を差別するために用いられてきたわけですから。

しかし、このように考えたところで、そもそも「ネトウヨ」は思想か、という疑問があります。古森氏は

>>「ウヨ」は間違いなく右翼の略であり、右翼は間違いなく特定の思想を指すからだ

と言っていますが、どうもネトウヨを「右翼」という言葉の侮蔑的な言い換えかのように思っているようですが、実際には、「ネトウヨ」は「右翼」とイコールではなく、このブログで取り上げてきたような、人種差別主義者や、デマをばら撒く人を指しています。「ネトウヨ」とは、「右翼」の中でも、極端な「差別主義者」や「デマゴーグ」を意味する語であるわけです。

これまでこのブログで取り上げてきた「ネトウヨ」の発言を見れば、彼らの言動が「思想」と呼べるものじゃないことがわかると思います。例えば

「南朝鮮は汚物に溢れ汚物が大好き」と口汚く中傷
「日本の囚人の97%は外国人」とデマ

「在日朝鮮人の生活保護は2兆3000億円」とデマ
画像を捏造してデマをばら撒く
犯罪者はとりあえず韓国人認定


などなど、どれもこれも、議論に値する「思想」ではなく、ただ他者を中傷するために都合よく情報を持って来たり捏造したりしています。

「ネトウヨ」という語が、「チョン」だのの差別用語と異なり、相手を「政治的、経済的又は社会的関係において」差別するために用いられているのではないことは明白ですし、「資本主義」「共産主義」「右翼」「左翼」「保守」「革新」などと違い、最初から他人の人権を貶めることを目的とした「差別」と「デマ」は、「思想」で許される範囲外でしょう。

従って、古森氏の「『ネトウヨ』という言葉はヘイトスピーチだ」というのは、「『差別主義者』という言葉は差別用語だ」というのと同じレベルの幼稚な論理と言わざるを得ません。

ヘイトスピーチの何が問題視されているのかも全く理解しないまま(理解していながらわざと言っているのかもしれないが)、「『ネトウヨ』という言葉はヘイトスピーチだ」などと幼稚な主張をする古森氏。やっぱり産経新聞論説委員だなあ、という感じです。

古森氏は、朝日新聞を批判する際に、「日本という国の進路の基本的選択の際は、朝日新聞が主張することと正反対の道を選べば、だいたい日本にとっての物事はうまくいくようだ」と言ったことがあるそうですが、私はこう言いたいですね。

「日本という国の進路の基本選択の際は、産経新聞と正反対の道を選べば、だいたい日本にとっての物事はうまくいくようだ」



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