産経新聞は、2013年から2014年にかけて、【中高生のための国民の憲法講座】というタイトルの連載をしていました。

産経新聞ですので、書いている人物は保守派、タカ派と呼ばれるような改憲論者ばかり。

百地章西修長尾一紘など、安保法案の時に集団的自衛権を合憲だと言った人ばかりです。(ちなみにこの3人は、菅官房長官が「安保法案を合憲だと言う学者も大勢いる」と言って、たった3人だけ挙げることができた、その3人です)

「集団的自衛権は合憲だ」という主張をしている憲法学者は全体の2%程度ですので、いかに産経が偏った人選をしているか察することができると思います。

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『弁護士ドットコム』より)

内容を見ても、「中高生のための」などと言いながら、中高生が自分で憲法について考えられるようにするような性格の連載ではなく、産経新聞らしく、日本国憲法をこき下ろし、自民党の改憲草案にあるような、国民を縛る国家主義的な憲法改正主張を「正論」として押しつける内容です。

「中高生のための」と言いながら、第99回のタイトルは「集団的自衛権は合憲」です。中高生に、賛成や反対の両論を聞かせて考えさせるのではなく、圧倒的大多数の意見を無視して、自分の考え方を押し付けるのが、産経の言うところの「中高生のため」という意味なのですね。まだ十分な知識や判断力がない中高生のうちに、産経流の憲法観を刷り込んでおこうというわけです。これぞ「洗脳教育」(笑)。

さすが、自分で自分のコラムに「正論」なんてタイトルをつけちゃえるナルシシスト新聞はやることが違います。自分で「私は正論を言います」と言っちゃう人は、まず信じちゃいけません。

さて、今回は、「素人でもわかるような大嘘をつく人がいるから気をつけよう」という内容です。なぜ、この専門家の主張内容が間違っているのかを見て、愛国カルトのデマに騙されない免疫をつけたいと思います。


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八木秀次の、世にも奇妙な「国民国家」と「主権国家」



今回取り上げるのは、「新しい歴史教科書をつくる会」の第3代会長でもある八木秀次氏。

八木氏も数少ない安保法案合憲論者の一人で、主張内容は絵にかいたようなタカ派、保守派、自民党主張なのですが、細かい主張内容は置いておくとして、今回注目したいところはここです。

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>>近代の「国民国家」の国民は「国防の義務」を負い、
>>その国の「潜在的兵士」という性格を持つ

>>従って外国籍の人に国政・地方問わず参政権を付与するのは
>>主権国家の行為として論理的に成り立たない

>>一部に外国人参政権の主張があるのは
>>憲法に「国防の義務」の規定がなく国民にその自覚がないからである
産経新聞2014年1月25日


どういう理屈!?


近代「国民国家」の国民は「国防の義務」を負い、その国の「潜在的兵士」という性格を持つ、というところは、異論はあるにしても、解釈の問題だからとりあえず良しとしましょう。

しかし、国民が国防の義務を負うことと、外国人参政権と、何の関係があるわけ? しかも、外国人に参政権を付与することは、主権国家の行為として論理的に成り立たない、ってどういう意味?

私は別段外国人参政権に賛成も反対もしているわけじゃありませんが、まともな神経がある人なら、読んだ瞬間に「おかしい」と感じるはずです。

この手の主張は、自分に都合のいいところだけを切り取って、それが全てであるかのように見せかける、という手法を用いています。過度の一般化と呼ばれる手法ですね。

こういう主張を崩すのは簡単です。反例を見つければいい。というわけで、八木氏の主張がどうおかしいか見てみましょう。とても大学教授とは思えない幼稚な主張ですので、中学生以上の学力があれば、簡単に崩すことができると思います。


・国防義務と外国人参政権


八木氏は、他国の憲法には「決まって」国防義務がかかれていると述べ、国防の義務を国民としての資格の根幹であるかのように主張します。

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産経新聞2014年1月11日

実際には、アイルランド、イギリス、ルクセンブルク、ベルギー、マルタ、ラトビア、フランスなどの憲法には国防義務は書かれていないらしいのですが(参照)、そういうところは無視するようですね。(ただし、フランスは憲法に国防義務が書かれていなくても、予備役登録義務があります)

「決まって」書かれているかはともかく、多くの国で国防義務規定があることは事実です。そして、八木氏はこう主張します。

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産経新聞2014年1月18日

>>ある国に国籍を有するということは、
>>その国の「国防の義務」を負う存在ということであり、
>>その国の「潜在的兵士」という性格を持つということなのです。

>>その「潜在的兵士」である外国籍の人に
>>我が国の国家意思の形成に参画する権利(参政権)を
>>賦与(ふよ)することは
>>論理的に成り立たないことです。
>>地方参政権ならいいではないかという意見もありますが、
>>地方自治は国家行政の一部を担ったもので、
>>その意思形成にやはり外国の「潜在的兵士」を
>>参画させることは主権国家として論理的にできないことです。

>>これは外国人を排除する「排外主義」とは無関係です。
>>民族差別でもありません。
>>近代の「国民国家」の性質として、
>>それぞれの国の国民が「国防の義務」を
>>負う存在であることから来る当然の帰結です。

(略)

>>外国人参政権という主張が生じるのも
>>憲法に「国防の義務」の規定がなく、
>>国民に自覚がないためといえるでしょう。


大嘘です!


八木氏は憲法9条憎しのあまり、改憲派に時々いる「あれもこれも憲法9条のせいだ」という「9条ノセイダーズ」に加入してしまったように思えます。

八木氏は、外国人参政権という主張が生じるのは、憲法に国防義務が書かれてなく、国民に(国民としての)自覚がない日本だからこそ起こると書いてありますが、それならば、国防義務がない国には外国人参政権は存在しないはずです。「外国人参政権」で検索するだけで、八木氏の主張の嘘が簡単にわかります。

まず、ヨーロッパですが、EU圏内では、EU圏内の国籍を持つ人には参政権を与えている国がほとんどです。EUは一つの国みたいな扱いなので、国内扱いなのは当然と言えば当然ですが、EU圏外の国民にも参政権を与えている国もあります。

以下、地方レベルや国政レベルなどの違いや、永住者のみとか5年以上の居住でよいとか、条件は各国違いますが、ウィキペディアに載っている、EU域内とか英連邦圏内とかの規定なしに外国人参政権が存在する国を列挙します。

・アイルランド
・ベルギー
・オランダ
・ルクセンブルク
・スウェーデン
・ノルウェー
・フィンランド
・アイスランド
・ポルトガル(一部の国のみ)
・スイス(一部の州)
・デンマーク
・ハンガリー
・スロバキア
・スロベニア
・ロシア
・リトアニア
・エストニア
・オーストラリア(一部の州)
・ニュージーランド
・ベネズエラ
・チリ
・ウルグアイ
・韓国
・イスラエル
・マラウイ
・香港



ウィキペディア情報なので、もしかしたら間違いもあるかもしれませんが、外国人参政権を認めている国が少なからずあることは確かです。

八木氏は外国人に参政権を付与することは、主権国家として論理的に成り立たないなどと言っていますが、これらの国は主権国家じゃなかったんですかね?

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八木氏の言うように、国民を「潜在的兵士」とみなし、他国の「潜在的兵士」に参政権を与えることが論理的に成り立たないのであれば、こんなに多くの国で外国人参政権が認められているわけがありません。

当然、これらの国には、八木氏の主張するように、憲法に国防義務がかかれていたり、兵役があったりする国も少なくありません。

つまり、
「外国人参政権は主権国家の行為として論理的に成り立たない」
「日本には国防義務がないから外国人参政権の議論がある」
という
八木秀次氏の主張は、誰の目にも明白な大嘘なのです。

自分が嫌いな憲法9条と外国人参政権の2つを無理矢理結びつけたために、訳の分からない主張になったのでしょう。

外国人参政権は論理破綻だ、という八木氏の主張こそが、完全に論理破綻しています。


・説明と証明を区別しよう


繰り返しになりますが、私は外国人参政権を主張しているわけではありません。外国人参政権に、積極的に賛成も反対もしていません。ですが、このようなデタラメな主張は認められません。

八木氏の問題は、「説明」だけして「証明」をしていない点です。

AとBの因果関係を「説明」することは簡単ですが、「説明」と「証明」は別物です。これをしっかり区別することは、デマに騙されないために大変重要なことです。

例えば、黒猫を見た日に、何か不幸な目に遭ったとします。「黒猫を見た」という事実と「不幸な目に遭った」という事実から、「黒猫を見たから不幸な目に遭ったんだ」と説明することはできます。

しかし、「黒猫を見た」という事実と「不幸な目に遭った」という事実の因果関係を証明するためには、

イ.黒猫を見て、不幸な目に遭った
ロ.黒猫を見たけど、不幸な目に遭わなかった
ハ.黒猫を見なかったが、不幸な目に遭った
ニ.黒猫を見なかったが、不幸な目にも遭わなかった


この4つのうち、最低限ロ.「黒猫を見たけど、不幸な目に遭わなかった」が存在しない、もしくは極端に少ないことを示せなければ、「黒猫を見た」と「不幸な目に遭った」に因果関係があるとは言えません。逆に、もしイ.ロ.ハ.ニ.が25%ずつ存在していれば、「黒猫を見た」と「不幸な目に遭った」には因果関係がない、と証明できたことになります。

パターンA
001
↑「黒猫」と「不幸」に因果関係なし

パターンB
002
↑「不幸な目に遭うときは必ず黒猫を見る」が、「黒猫を見たけど不幸な目に遭わなかった」日もある場合。「黒猫」と「不幸」に必ずしも因果関係があるとは言えない。(例えば、365日毎日黒猫を見ていればこうなる)

パターンC
003
↑「黒猫を見た日は、必ず不幸な目に遭っている」場合。「黒猫」が「不幸」の原因になっている可能性があるが、「黒猫を見た日」のサンプル数が極端に少ない場合は、必ずしもそうとは言えない。

パターンD
004
↑「黒猫を見た日は不幸な目に遭う」と「不幸な目に遭う日は黒猫を見る」が一致する場合。因果関係が存在する可能性が高い。


「黒猫を見たから不幸な目に遭った」という説明をすることは簡単です。しかし、「黒猫見たから不幸な目に遭った」と証明できるのは、上の図のパターンCとDだけです。Bでさえ、「黒猫」と「不幸」の間に因果関係がある可能性は示せても、「不幸」の原因が黒猫以外の場合もあり得るので、因果関係を証明できていません。

説明と証明は別物です。「外国人参政権なんて議論があるのは、国防義務がないせいだ」と説明することは出来ます。しかし、それを証明するためには、「国防義務がある国には、外国人参政権が存在しない」ことを示さなければなりません。

007
↑八木氏の主張を「証明」するためには、こういう図が描けないといけない。

ところが、実際には、国防義務や、さらにはデンマークやノルウェーや韓国のように、平時の徴兵制までありながら、外国人参政権を認めている国が存在するので、八木氏の主張は間違いだと言えます。

008
↑現実

もしも、八木氏の主張の通りなら、国防義務規定がない日本は外国人参政権の主張が「存在」するだけでなく、もっと積極的に選挙の争点になったり、もうとっくに外国人参政権が認められていてもおかしくないはずですよね。しかし、外国人参政権が選挙の争点になったという話さえ聞きません。八木氏の論理は、根本から破綻しています。

日本に「国防義務がない」という事実と「外国人参政権の議論がある」という事実が混在する一例だけを示して、「国防義務がないから外国人参政権の議論がある」という説明をしていますが、他の例を見れば、それが間違いであることは明らかなのです。説明と証明の区別がちゃんとついていれば、こんなでたらめな説明に騙されることはなくなります。

八木秀次氏が、本当にこんな素人でもわかるような、説明と証明の区別がつかないまま、でたらめな主張をしたのか、わかってて言ってるのかは知る由もありませんが、この連載は、【中高生のための国民の憲法講座】です。まだ「説明」と「証明」の区別がついていない中高生に対し、意図的に嘘をついて騙そうとしているとも考えられます。

もし説明と証明の区別がついていないなら、学者として失格レベルの論理性の無さですし、もし意図的に中高生を騙そうとしているのなら、人間として最低です。

こんな男が、『新しい歴史教科書』や『新しい公民教科書』を作っているのです。こんな人物の作る歴史教科書や公民教科書で一体どういう人間が育つのか、想像もしたくありません。

こんなど素人でもおかしいとわかるでたらめな主張を載せてしまうのが、さすが産経新聞ですが、大学教授のような人物でも、鵜呑みにしてはいけない、といういい例だと思います。

日本に関わらず、証明せずに、自分に都合のいい「説明」だけするという事例は山ほどあります。やろうと思えばどんなことだって、説明するだけなら可能なのです。


・日本人とユダヤ人は同祖だ。(日ユ同祖説)

・日本語と英語は同祖だ(こんな本

・「くだらない」の語源は「百済(では)ない」であり、昔の日本人は百済のものを最高と見なしていた。(民間語源

・ゲームをやるとゲーム脳になる。

血液型で性格が決まる。


証明できないものが全て間違いとは限りませんが、説明と証明の区別は、「愛国カルト」対策だけでなく、他のデマや迷信に騙されないためにも重要です。最低限、このレベルの幼稚なデマに騙されないように、気をつけたいものです。

====デマに騙されないために====

・説明と証明を区別しよう

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