<ざっくり言うと>
  • 西村幸祐をはじめ、1944年の米軍戦時情報局のレポートに「『慰安婦』とは売春婦に過ぎない」という記述があることを根拠に、強制的なものではなく、自由意思の売春婦にすぎないという主張をする者がいる。
  • しかし、そのレポートを見ると、「慰安婦は騙して連れてこられた」とはっきり書いてある。
  • そのレポートの「『慰安婦』は売春婦に過ぎない」というのは、「慰安婦」という語句の説明に過ぎない(アメリカに「慰安婦」(comfort girl)という言葉は存在しないので、言葉の説明として、「"comfort girl" とは prostitute のことにすぎない」と書いてあるだけ)。この記述は、慰安婦という「語句」の説明であり、慰安婦という職業の「実態」についての説明ではない。

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なんか、テキサス親父やら西村幸祐やらの宣伝活動によって、「米戦時情報局が、慰安婦を『売春婦以外の何物でもない』と記述している! これは慰安婦問題がデマである証拠! 自由意思で売春してただけだ!」という主張が、ネットではかなり蔓延しているようです。(ネットで検索してみると、これを根拠に「自由意思だ」と主張しているものがかなりある)

つい先日も、山田宏という自民党議員がこの情報をもとにツイートをしていました。この男は国会議員のくせにデマをしょっちゅう吐いている困った男です。
しかし、この資料に慰安婦を「売春婦に過ぎない」と書いていることは事実ですが、それは山田宏らが主張するような、「『売春婦に過ぎない』=『自由意思』『問題なし』」という意味ではないのです。それを検証してみましょう。


今のうちに言っておきますが、別に私は「これが慰安婦の真実だ!」みたいなことを主張するつもりはありませんし、慰安婦合意を履行しない韓国の肩を持つ気もさらさらありません。しかし、西村幸祐や山田宏の主張するこの米軍の文書の解釈は明白に間違っておりますので、この記事ではそこを指摘しておきたいと思います。

・「APO689という有名な文書」という間違い


まず、正直これはどうでもいいことなんですが、西村幸祐の間違いが少々こっぱずかしいので、最初にそこを訂正しておきたいと思います。


西村らが言及している文書は、正しくは「日本人戦争捕虜尋問レポート No.49」という文書です。そして、こちらで全文を読むことが可能です。


西村はこの文書を「APO689という有名な文書」だと言っていますね。たしかにAPO689と書いてあるんですが、これ、文書番号じゃありません。ただの私書箱の番号です。


APO は Army Post Office の略で、こちらでどの地域にどの番号が割り当てられたかの一覧が見られます。ね? この報告書が書かれたインドのレドという場所に、Army Post Office 689 という番号が割り当てられているでしょう? 西村幸祐くんが、どこのまとめサイトを鵜呑みにして「APO689という有名な文書」なんて言っちゃったのか知りませんが、西村君が実際には全然ちゃんと調べてないことがこれだけで伺えますね。


まあ、これはどうでもいいことですので、本題に移ります。

・「騙されて連れてこられた」とはっきり書いてある。


さて、文書を見てみましょう。たしかに、文書原文には以下のように書かれています。
A "comfort girl" is nothing more than a prostitute or "professional camp follower" attached to the Japanese Army for the benefit of the soldiers. 

(『慰安婦』とは、売春婦、もしくは兵士のために日本陸軍に宛がわれた『職業的な野営随行者』にすぎない)
ここを根拠に、「慰安婦は自由意思だ!」と主張している人がいるわけですが、ここでポイントなのは、A "confort girl" と、引用符(" ")がついていることです。このことは後で述べます。


重要なのはこの後です。
Early in May of 1942 Japanese agents arrived in Korea for the purpose of enlisting Korean girls for "comfort service" in newly conquered Japanese territories in Southeast Asia. The nature of this "service" was not specified but it was assumed to be work connected with visiting the wounded in hospitals, rolling bandages, and generally making the soldiers happy. The inducement used by these agents was plenty of money, an opportunity to pay off the family debts, easy work, and the prospect of a new life in a new land, Singapore. On the basis of these false representations many girls enlisted for overseas duty and were rewarded with an advance of a few hundred yen.

1942年5月上旬、東南アジアの新たな征服地で『慰安サービス』を行うための韓国人女性を募る目的で、日本の仲介業者が韓国を訪れた。

この『サービス』の内容は明示されなかったが、病院で負傷兵を見舞ったり、包帯を巻いたり、一般的に言えば兵士を喜ばせる仕事だと考えられた。

仲介業者は、多額の金と、家族の借金を完済する機会、楽な仕事、そして新天地シンガポールでの新生活の展望という誘い文句を用いた。

これらの虚偽の説明によって、大勢の女性が海外での仕事に採用され、数百円の前払いを得た。
ご覧の通り、この報告書には、慰安婦を募集する際に、仕事内容を教えず、虚偽の説明を用いたって書いてあるんですよ。虚偽説明をしているのに、自由意思も何もないでしょう。


ちなみに、この後はこのように書かれています。
The majority of the girls were ignorant and uneducated, although a few had been connected with "oldest profession on earth" before.

彼女たちの多くは無知で無教養だった。もっとも、中には以前『世界最古の職業』(※売春婦のこと)に従事したことのあるものも若干名いた。
無知で無教養な女性を騙して売春婦にした、と読むほかはありませんね。

・「『慰安婦』は売春婦にすぎない」というのは語句の説明にすぎない


さて、最初の「『慰安婦』とは、売春婦にすぎない」という個所を見てみましょう。


先ほども言いました通り、ここで大事なのは、引用符(" ")の存在です。そして、この文の直後には、このように書かれています。
The word "comfort girl" is peculiar to the Japanese. 

(『慰安婦』という言葉は、日本語に独特のものである)
何のことはない。米国には "comfort girl"(慰安婦)という言い回しは存在しないから、それだけ聞いても、看護師なのか、芸人なのか、芸者なのか、キャバクラ嬢みたいなものなのか、何をする職業なのかわからない。だから、「『慰安婦』という言葉は、早い話、売春婦のことである」という語句の説明をしているだけなのです。


この「『慰安婦』は売春婦にすぎない」という一文は、「看護の仕事でもなく、客を楽しませる芸人でも芸者でもなく、酒の相手をするキャバ嬢でもなく、性的サービスを行う仕事のことである」という趣旨の説明がされているだけで、「強制性がなかった」というような意味で書かれているわけではないのです。


そりゃあ、お金をもらって性的サービスを行ってるんだから、「売春婦」には違いないでしょう。時代劇なんかで「借金のカタに遊郭に売られた」なんて設定をしばしば聞きますが、それと似たようなものですね。「借金のカタに売られようが、騙して連れてこられようが、金をもらっている『売春婦』だからOK!」とはならないでしょう。


今の我々は、「慰安婦」という言葉を良く知っており、その「実態」が問題になっているので、「『慰安婦』とは売春婦のことに過ぎない」と書いてあると、慰安婦の「実態」の説明であるかのように誤解してしまいますが、この文書が作られた1944年当時、米国人は誰も「慰安婦」なんて言葉は知らなかったので、最初に語句の説明として「『慰安婦』とは売春婦のことに過ぎない」と書いてあるだけなのです。


また、西村は "professional camp follower" 「日本軍基地に追随するプロ集団」と訳しています。日本語で「プロ集団」などと言うと、普段からそれを生業としている手慣れた人たち、という印象で、実際西村もそういう意図で言っているんでしょうが、これも間違いですね。原文にはどこにも「集団」を意味する単語はありませんし。(a comfort girl、a prostitute と、単数形が用いられている。勝手に「集団」とか印象操作すんなよ。マジで西村幸祐って嘘つきで卑怯だな)


camp follower は、直訳すれば「野営に随行する人」です。professional(職業的)な野営随行者というのは、兵士への個人的愛情や、愛国心や、ボランティア精神で軍に随行しているのではなく、職業として、金銭目的で軍に随行している人、という説明だと考えるのが、文脈上妥当でしょうね。彼女たちの大半は、無知で無教養な、未成年者も含む若い女性であり、「プロ集団」などではなかったのですから。


西村幸祐も山田宏も、この「『慰安婦』とは売春婦のことに過ぎない」という一文を声高に叫んでいますが、この一文は慰安婦の「実態」を説明したものではなく、慰安婦という「語句」の説明にすぎず、何ら意味を持っていないのです。西村も山田も、実際にはこの文書を読んでないんじゃないですかね? 直後に「騙して連れてこられた」って書いてあるのに。


確かに、この報告書を読むと、給料などの待遇面は、一般的に想像されるようなものに比べるとかなりよいように思われます。
「欲しいものを買えるだけの多くのお金を持っており、暮らし向きはよかった」
「将兵と共に、スポーツ行事を楽しんだ。また、ピクニック、娯楽、夕食会に出席した。蓄音機も持っており、都会では買い物に出かけることも許された」

などと書かれているので、他の慰安所はどうか知りませんが、この報告書の慰安所の待遇は「性奴隷」などというイメージとは違うように感じられます。


とはいえ、この報告書は「無知で無教養な女性をだまして売春婦にした」という内容が書かれているわけですので、ここを無視して、あたかも慰安婦が自らの意思で行っていた高級売春婦であるかのような主張をすることは、明らかに間違っているわけです。


つまり、この文書をもとにして、「『慰安婦』は売春婦に過ぎないから問題ない」と言うことは、「金を払っていい暮らしをさせさえしておけば、無知で無教養な未成年の女性をだまして外国に連れていって売春宿で働かせてもOK」と言っていることになってしまうのです。日本の倫理観ってそんなことで本当にいいんですかね? (まあ、西村幸祐や山田宏の倫理観なんて、その程度のものかもしれませんが。)


というわけで、西村や山田らが、慰安婦の実態を表す「動かぬ証拠」として用いている「APO689という有名な文書」(笑)は、彼らの考えるようなものではないのです。ちゃんと読んでりゃ誤解しないと思うんですけどね。


彼らには、何かを主張する前に、もうちょっと知能をつけてほしいと願ってやみません。みなさんは、このような連中に騙されないよう気を付けてください。

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