<ざっくり言うと>
  • 「アジアの安全保障会議で韓国が日本批判を展開し、インドネシアのムルトポ准将がそれを叱責した」という話が、名越二荒之助の著作を出典として出回っている。
  • しかし、どの会議なのか不明瞭だったり、同じ名越の本でも記述が変遷しており、名越以前に出版された本で同じ内容が記載されているという情報もなく、名越の創作と考えるのが妥当。
  • 名越は「アインシュタインが日本を世界の盟主と絶賛」というデマや、「パラオの国旗は日本の真似」というデマを広めた人物で、この人物の話の信憑性は薄い。
  • タイのプラモードが「日本はアジアのお母さん」と発言したコピペに代表される、ネットに出回っている「世界の大物が日本の大東亜戦争を高く評価」という類の話の多くが名越が出典であり、名越以前に情報ソースが遡れなかったり、元の情報と内容がすり替わっていたりしている。
  • 名越二荒之助という名前を見たら、デマだと判断した方がよい。
  • 「あの〇〇氏が××と発言!」というような話は、初出が確認できずに、孫引き、玄孫引きになっている場合は、安易に信頼しない方がよい。
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~名越二荒之助の「ムルトポ発言」~


前回、「『ASEAN会議に韓国が唐突に日本批判を展開し、インドネシアに叱責された』というのはデマ」という記事を書きました。


このデマが広まる一方、これがデマだと認めながら、「ASEAN会議の件はデマだが、元ネタがあり、韓国が日本批判をしてインドネシアに叱責されたのは本当」としているサイトもあります。そのネタを紹介しているサイトによると、以下のように説明されています。
どうやら、上記の話(引用者注:ASEANデマの事)は作り話であったと私は判断せざるをえません。(悲)

しかし、検索を行ううちに、実はこの話のモデルが存在しているのはないかという記事をいくつか目にしました。

それがこの本に記載されています。
名越二荒之助氏著 「日韓2000年の真実」

--------------------- 一部引用 --------------------------
今から十五年ほど前、
アジア各国の軍部代表がマニラに集まった時のことだ。

例によってフィリピンと韓国の代表が、
延々と戦争当時の日本軍と日本民族と
現在の日本企業を罵倒する演説を打った。

列席のアジアの親日家たちは
「韓国代表の演説は痛烈無残で聞くに堪えなかった。
だが、列席の日本代表(自衛官)は一言も発しなかった。」と悔しがった。

そこで、インドネシアのアリ・ムルトポ准将は韓国の軍人に向かって
次のように日本を擁護した。(准将はアセアン結成の中心人物)

日本はアジアの光である。
大東亜戦争は欧米人にアジア人の勇敢さを示したもので、
チンギス・ハーンとともにアジア人の誇りである。

ここで、インドネシアの日本民族の価値についての見方を申し上げる。
今、忽然として日本民族がこの地球上から消えたら、
アジアとアフリカは非常に困る。
その時に韓国が一番困ると思う。
韓国は工業大国日本と競争したから、
立派な工業国になれたのである。

もし、日本がシンガポールの地点にあったら、
インドネシア人は少なくとも百万人が日本に住み、
日本人と同等の教育を受けるから、その人間関係から日本の技術、
市場、金融、スタッフ等活用することができる。
だから企業の成功は容易である。
つまり、日本の近いところに位置していることは、幸運なのだ。

経済的支援を連続的に受けていると言ってもよいくらいだ。
インドネシアが日本に近ければ、今のような貧弱なインドネシアではない。

つまり、我々インドネシア人は
「日本はなにもしてくれなくてもよい」と考えている。
日本は欧米と肩を並べて進歩しているだけで十分、
アジア・アフリカにつくしている、と考えている。
だから、我々アジア人は外交面に弱い日本を支援したいと思っている。
日本から援助をもらうだけで応援しないのでは運命共同体とは言えないし、
対等のパートナーとも言えないのではないか。

--------------------- 引用ここまで --------------------------

尚、上記発言については、

名越二荒之助氏著 「日韓2000年の真実」
のほかにも、
前野徹氏著 「戦後 歴史の真実」
貝雄文氏著 「国を苛めて何になる」

にも同様の記載があるため、インドネシアのアリ・ムルトポ准将は確かに発言を行ったということは真実であると言えそうです。

無理にASEANと結び付けて誇張させる必要はありません。

このような事実を広く認識させていくだけでよいと思います。
つまり、ASEAN会議ではないが、ほぼ同一内容が軍事会議で行われており、インドネシアのムルトポ准将が「日本はアジアの光」「韓国の発展は日本のおかげ」「韓国以外は日本に感謝している」と述べたのは真実だ、というわけです。


しかし、今回も実に怪しい。今回も、セリフはやたら詳しいのに、会議自体は「十五年前ほどの前、アジア各国の軍部代表がマニラに集まった時」としてあり、やたら曖昧。セリフが正確に引用できるのなら、手元に引用資料が絶対あるはずなので、「19××年の△△軍事会議」と正確に書いて当たり前なのに、「15年ほど前、アジア各国の軍部代表がマニラに集まった時」なんて曖昧な表現をしてあるのが実に歪。


そして、今回の元ネタはあの名越二荒之助。名越は、あの「アインシュタインが日本を世界の盟主と絶賛」というデマや、「パラオの国旗は日本の真似」というデマなど、「世界が日本を絶賛」「大東亜戦争は間違っていなかった」「アジアは日本の戦争に感謝している」という類のデマを数多く飛ばした人物です。はっきり言って、この名前が出た時点でデマを疑うべき。


そして、今回もやっぱりデマと判断してよいでしょう。

~怪しさ満点! 変遷するムルトポ発言~


上記のサイトによれば、この話は名越の『日韓2000年の真実』という本に載っているとのこと。調べてみると、この本の出版は1997年。そこで「今から15年ほど前」と書かれているとなると、韓国が日本批判を行い、インドネシアのムルトポ准将が日本を擁護し、韓国を叱責したという会議が行われたのは、1982年前後と言うことになります。


ところが、ムルトポ准将は、1978年に既に退役しています。その後1983年まで情報大臣というのをやっていたらしいんですが、翌年の1984年に死去しています。1982年前後に、軍部の代表が集まる会議に出席するというのはどうにも疑わしいです。


で、さらに検索してみると、別のサイトで、この話があったのは昭和48年(1973年)4月としているものを発見しました。先ほどの『日韓2000年の真実』と違い、年と月が特定してあるので、少し信憑性が増していますね。こっちなら、ムルトポ准将が出席している可能性もありそうですが、すると先ほどの「今から15年ほど前」というのは何だったのでしょう…?


しかし、年月日以上に問題なのが、先ほどと描写がかなり異なっている点です。

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昭和48年4月、マニラでASEAN諸国を中心に安全保障の国際会議が開かれた。

会議が始まると韓国代表が演説した。
「日本帝国主義が三十数年間も韓国を侵略したために、韓国は防衛体制が確立できなかった。その責任は日本にある」。

日本側はこれに何も言わなかった。

するとインドネシア独立戦争を戦ったムルトポ将軍は、韓国は日本の庇護の下で日本人として生きてきたくせに、日本が戦争に負けたとたん戦勝国民だとうそぶき、独立戦争を戦ったと嘘を言う。自ら独立戦争を戦ったムルトポ将軍は朝鮮人のその性根が許せず、立ち上がって韓国代表にこう言った。

「朝鮮人は自ら戦わなかったくせに責任を日本に押し付けるとは何事か。もしアジアに日本という国がなかったと仮定してみよ。
1899年の義和団事件以来、ロシアは満州に大軍を駐留させ朝鮮を狙っていた。朝鮮が戦わないから日本が戦ったのだ。これが日露戦争だ。朝鮮は日本が敗けると思って裏でロシアと繋がっていたではないか。もし日本が戦わなかったら朝鮮はロシア領になっていたことは間違いなかった。

ロシア領になっていたのは朝鮮ばかりではない。支那も北半分はロシアが支配し、揚子江以南はイギリスとフランスが支配しただろう。遅れて登場したアメリカはどうやって支那大陸に食い込むか企んでいた。

そもそもアジア混迷の遠因は支那にある。支那はアヘン戦争でイギリスの不当な要求に屈して簡単に降参してしまった。その時支那はなぜ徹底して戦わなかったのか。イギリス・フランスを大陸に引き込んで蒋介石のように戦えば勝てたかもしれない。
“中華”と誇る支那が不甲斐なく敗けたから日本が大東亜戦争を戦わざるを得なくなったのではないか。この責任は支那にある。
そもそもアジアで戦ったのは日本だけではないか。もし日本という国がなかったらアジアは半永久的に欧米植民地勢力の支配下に置かれていたのではないか」

そして最後にムルトポ将軍は「戦後、アジア諸国は日本から経済、技術、資金でいかに多くの支援を受けたのか」と言った。

真実を言われた韓国代表は何も言えなかった。
参照:『昭和の戦争記念館』
同じ事件のことを言っていると思われますが、先の引用では

>>フィリピンと韓国の代表が、延々と戦争当時の日本軍と日本民族と現在の日本企業を罵倒する演説を打った。

とあったのに、今回は

>>会議が始まると韓国代表が演説した。「日本帝国主義が三十数年間も韓国を侵略したために、韓国は防衛体制が確立できなかった。その責任は日本にある」。

と書かれています。フィリピンの代表も日本罵倒演説を行ったと書かれていたのに、今回は韓国の事しか書かれていない。内容も、「日本軍と日本民族と日本企業を罵倒する演説」から、「日本帝国主義が~」という植民地批判に変わっています。


また、ムルトポ准将の話も、「日本はアジアの光~」「韓国の発展は日本のおかげ~」みたいな話から、「ロシアが~」「支那が~」って話に変わっています。ムルトポ准将のセリフがこうも変わってしまっていると信憑性がかなり怪しくなってきます。


それに、よく読んでみると内容も変。


まず、「韓国は日本の庇護の下で日本人として生きてきたくせに、日本が戦争に負けたとたん戦勝国民だとうそぶき、独立戦争を戦ったと嘘を言う。自ら独立戦争を戦ったムルトポ将軍は朝鮮人のその性根が許せず~と書いてありますが、なんでムルトポ准将の心の内がわかるの? これ、どう考えても筆者が自分の考えをムルトポ准将の考えってことにしてるでしょ。


次に、インドネシア代表が事前準備もなしに突然「1899年の義和団事件」なんて言及するかあ? 「朝鮮は日本が敗けると思って裏でロシアと繋がっていたではないか」とか、ムルトポ准将、そんなに韓国史に興味があるの?


しかも「朝鮮が戦わないから日本が戦ったのだ」とか出鱈目もいいところだし。これだとまるで朝鮮のために戦ったかのようだけど、それだったらその後併合するわけなかろう。日本は朝鮮をロシアにとられないため、自国利益のために戦ったのであり、朝鮮のために戦ったのではない。まして、朝鮮が裏でロシアとつながっていようが、非難されるいわれは全くない。「なんで日本に協力しないのはおかしい」みたいなことになってるわけ? 朝鮮から見たら、日本もロシアもどっちも侵略者なんだから、強そうな方につくでしょ。


それに、「“中華”と誇る支那が~」というセリフも変。こんなの漢字文化圏しか理解できないやん。中国は英語だとChinaだし、インドネシア語だとCina。インドネシア人が「"中華"と誇る支那が~」なんて言うかぁ? 何語でどうやって表現したんだ? しかも、韓国批判の際に中国批判を展開する不自然さ。


そして、「もし日本という国がなかったらアジアは半永久的に欧米植民地勢力の支配下に置かれていたのではないか」なんてセリフを、インドネシアの准将が言うかぁ!? たしかにインドネシア独立戦争に参加した日本人もいたけど、4年以上かけて独立戦争を戦って何万~何十万もの国民の犠牲の上に独立を勝ち取ったインドネシアの准将が、「日本がいなければ独立出来ておらず今も植民地支配を受けていた」とか卑屈なこと言うかぁ? ついさっき「自ら独立戦争を戦ったムルトポ将軍」って書いてあったのに、その自ら独立戦争を戦った将軍が、「日本という国が無かったらまだ植民地だった」とか言うかあ?


それに、こんなの聞いたら、他のアジアの国は怒るで? 例えばタイはずっと独立国だったし、フィリピンは1898年に独立革命をやってて、1934年にはアメリカに10年後の独立を約束させ、実際に1946年に独立してる。「日本が無かったらまだ植民地」とか言われたら、「バカにすんな」って怒るで。


どう考えても、筆者が、自分の考えていることを「ムルトポ准将の言葉」ということにして記述したとしか私には思えません。


この出典は『昭和の戦争記念館』だと書かれているので検索してみると、こんなん出ました。

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「名越 二荒之助 (編集)」……。


また名越かよ!!


つまり、どっちも名越二荒之助の本なのに、記述内容がかなり異なっているわけです。引用だったらこんなに内容が異なるわけがないので、絶対これ自分で創作したやろ!


会議の開催時期も記述が異なり、ムルトポ准将の発言内容も大きく変遷し、しかも情報ソースは名越二荒之助…。こりゃあ、名越の創作と考えるほかはありません。

~大物の「大東亜戦争称賛話」を次々と広める名越二荒之助


冒頭でも述べましたが、この名越という男、「アインシュタインが日本を世界の盟主になると絶賛」というデマとか「パラオの国旗は日本の真似」というデマとかを広めた男です。他にも、名越を元ネタにした大物の「大東亜戦争」称賛話がネット上ではコピペされまくっていますが、はっきり言います。


名越二荒之助という名前を見たら、デマだと思いましょう。


先ほどから何度も言及している「アインシュタインデマ」も、日本人の田中智学という宗教家が、自分の発言を「シュタイン博士の発言」としたのが初出だと言いますし(詳細)、世の中にはいるんですよ。自分の考えなのに、それだと説得力がないから、大物の名前を勝手に使って「〇〇氏がこう言ってました」って言う奴。本人が死んじゃってれば、バレることはそうそうありませんからね。


とりあえず、ネットで簡単に調べられただけでも、


ムルトポ(インドネシア准将)、
サンティン(アムステルダム市長)、
ククリット・プラモード(タイ首相)、
ラジャー・ダト・ノンチック(インドネシア上院議員)、
モハメッド・ナチール(インドネシア首相)、
タナット・コーマン(タイ副首相)、
ソムアン・サラサス(タイ軍事顧問)、
カザリー・シャフェー(マレーシア外相)、
A・J・トインビー(英国歴史学者)
蒋介石、


これだけの人たちの日本の戦争賛美発言が、名越の著作をネタ本にして広められています。


この手のデマは、「デマだ」と断定するのが難しくて本当に困ってしまうのですが、例えばタイのプラモード首相が「日本はアジアのお母さん」と発言したという話など、その情報ソースを確かめようとしている人が大勢いるのに、いまだに誰も確認できない。


どれも情報ソースを名越以前に遡れなかったり、遡れたものでも恣意的な翻訳で大東亜戦争賛美にすり替えたりしています。先ほども言いましたが、名越二荒之助という名前を見たらデマだと思いましょう。


「名越二荒之助の発言」だと何の説得力もありませんが、「インドネシアのムルトポ准将の発言」とか「タイのプラモード首相の発言」とかってことにすれば、「やっぱりアジアは日本の戦争に感謝しているんだ!」と、愛国者様たちが脳味噌空っぽにして「感動した!」とか言って広めてくれますからね。こんなにもコピペが出回っているところをみると、名越の目論見は見事に成功したと言えましょう。


そんでもって日本会議とかいう右翼の集まりが、名越を講演会に呼んだり、名越の本を出したりして、このデマを広げる。名越は調子に乗ってこういう話を創作する。この日本会議には安倍晋三とか麻生太郎とか菅義偉とか高市早苗とか稲田朋美とか和田政宗とか長尾敬とか、自民党議員が200人以上も参加している組織だから、本当に情けなくなる…。名越のこんな与太話にホルホルしてるような奴らが、この国の政治の中枢にいるのかよ…。

~意地でもデマにしがみつく人~


ちなみに、前回のASEANデマを鵜呑みにしてこのブログにコピペコメントをしてきた人物は、このムルトポ准将デマも鵜呑みにし、私が「だったらいつのどの会議か言ってみろ」と言ったら、このように答えていました。

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>>インドネシアのアリ・ムルトポ准将が
>>日本を尊敬し、感謝していたことが重要なので合って、
>>何の会議なのかは本質とは無関係



うーん、すごい。インドネシアのムルトポ准将が日本を尊敬し感謝していたというのが本当なのかどうかは、いつ開かれたどの会議か特定できないと証明しようがないはずなのですが、「いつ開かれた何の会議かはわからないけど、とにかくムルトポ准将が日本を尊敬し感謝していたというのは事実なのだ!」というわけですね。怪しい情報でも、自分に都合のいいところはつまみ上げて鵜呑みにする。これが日本の知能レベルで最低限に位置するネトウヨという存在の思考回路ですね。


さらに、「どの会議なのかわからないと、事実かどうか判断できないだろ」と反論されたら、この人、こう答えました。

2019y06m20d_201450657

>>各国の軍部隊票が集まった軍事的に機密性の高い会議なのだから
>>詳しい情報をネット上に開示できないのは当たり前だろ


す、すごい…。いつ開かれたどんな会議かも開示できないほど機密性が高い軍事会議なのに、「韓国が日本批判を展開して、ムルトポ准将が反論した」なんていうことは開示されるわけか…。


どんなに怪しい情報でも、自分に都合が良ければ、自分の脳内で無理やり合理化して、鵜呑みにしてしまう。たとえ誤りを指摘されても認めない。これがウヨ仕草。この手法なら、どんなデマでも肯定できますね。すごい!


前回は「情報ソースが無いものを信じるな」という話をしましたが、今回のように一見書籍の情報ソースがあるものでも、その書籍がまともな情報ソースに基づいていないことがあります。何が事実で何が事実でないかの判断は実に難しいですが、今回のように、「〇〇氏が××だと発言した」という手のものには慎重になった方がいいですね。


漱石が「『I love you.』を『月がきれいですね』と訳した」のように、初出不明のまま広まりまくっているものもあります。面白い話だったり自分に都合がよかったりする話でも、誰かの発言については、初出がわからず、孫引き、玄孫引きになっている場合は、安易に信用しない方がよいでしょう。

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