<ざっくり言うと>
  • 逮捕は刑罰ではなく、証拠隠滅や逃走を防ぐための措置であり、その恐れがない場合は逮捕されないのが当然である。
  • 池袋の暴走事故で加害者が逮捕されないのは、過去の事例と比べても、特別なことではない。
  • 池袋の暴走事故で書類送検まで7か月かかったことも、過去の事例と比べても、特別なことではない。
  • 書類送検は身柄が拘束されていないだけであり、不起訴でも無罪でもなく、刑が軽いとも限らない。
taiho

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目次

飯塚幸三、書類送検。逮捕や送検についての勘違い多数


池袋交通事故で、飯塚幸三が来週にも書類送検される見込みとなりました。しかし、これに対して、「書類送検じゃなくて逮捕しろ!」というようなコメントが本当に多い。これは思想の左右を問わず本当に多い。


なかには、「書類送検」を根本から勘違いしている人も。
なぜか書類送検を無罪とか軽犯罪みたいに勘違いしていますね。書類送検は検察に捜査が移ることであって、起訴の判断はこれからになるわけですし、必ずしも罪が軽いというわけでもありません。


今回は「愛国カルト」についてではないんですが、あまりにも勘違いしている人が多すぎるので、改めてこのことについて書きたいと思います。


予め言っておきますが、私は飯塚幸三をかばっているんじゃありません。あまりにも逮捕や送検、身柄の勾留について勘違いしている人が多く、これは日本中のすべての人に関係する人権の問題なので記事にしているのです。


↓このブログの過去記事

逮捕とは証拠隠滅や逃走の恐れがある場合に、身柄を拘束することである


今回この話題がこんなにも大きくなったのは、飯塚幸三が現行犯逮捕されなかったからでしょう。


しかし、飯塚幸三が現行犯逮捕されなかったのは彼が緊急入院してしまったからです。そもそも根本から勘違いしている人が少なくないのですが、日本における逮捕というのは、身柄を拘束し、捜査官のいる場所(警察署など)への引致のことです。入院している人間を警察署に連れて行って身柄を拘束することはできないので、緊急入院した飯塚幸三が現行犯逮捕されなかったのは、物理的に当然なのです。


では、飯塚幸三が退院後も逮捕されなかった理由は何でしょうか。それは、証拠隠滅や逃走の恐れが無いと判断されたからです。
飯塚元院長は事故を起こしたことを認め、重要な証拠となるドライブレコーダーや車両そのものを任意提出しており、警視庁は、証拠隠滅や逃亡の恐れがないと判断したという。飯塚元院長の回復を待って改めて詳しく事情を聴く方針だ。
朝日新聞4月26日
飯塚元院長が重傷を負って入院していたため逮捕は見送られていたが、入院中から聴取に応じ、退院後も目白署に出頭したことから、警視庁は逮捕要件に当たる逃亡や証拠隠滅の恐れがないと判断。今後も任意のまま捜査を継続するとみられる。
産経新聞5月18日
刑事ドラマや探偵アニメなどの影響もあって、「逮捕して一件落着」「犯罪者は逮捕される」みたいな印象をお持ちの方が多いのだとと思いますが、そもそもその認識が間違いです。おそらく、「逮捕しろ!」と言ってる人のほとんどは、逮捕を刑罰と勘違いしているのではないでしょうか。まず、根本的な話として、逮捕は刑罰ではありません。証拠隠滅や逃亡を防ぐために身柄を拘束するものです。刑罰は裁判で決まるのであり、証拠隠滅や逃亡の恐れがない場合は、逮捕されないのが当然の措置なのです。


今回の場合、警察の取り調べが終わったから書類送検されるのであり、「書類送検じゃなくて逮捕しろ!」と言ってる人は、送検が何か知らないんじゃないですかね? 取り調べが終わったから送検するのに、今更逮捕してどうすんの? 取り調べが終わった後に逮捕とかわけわからない。


そして、書類送検を無罪だとか刑が軽いとか勘違いしている人も大勢いますが、書類送検になったということは、あくまで逮捕の要件が満たされなかった(あるいは、要件は満たすものの警察が敢えて逮捕に踏み切らなかった)ことを意味するにとどまり、このことと最終的な処分や刑罰の重さとは、直接は関係ありません。詳しくは下の記事をお読みください。



中には、虐待による乳児死亡という、これまたたいへん痛ましい事件でも、容疑者である容疑者は書類送検→在宅起訴となり、事件から2年後に、それぞれ禁固1年8月と禁固1年4月の実刑判決が出ました。「書類送検は実刑判決を受けない」なんてことはありません。



過去の例と比べても、池袋事故の対応は特殊例ではない


このように説明しても、「逮捕されないなんて上級国民を優遇しているんだ!」と言う人が大勢いることでしょ。たしかに、同じことをやらかしたのに、Aさんは逮捕されて、Bさんは逮捕されなかったら、「特別扱いだ!」と疑うのは当然でしょう。


しかし、過去の例と比べれば、飯塚幸三に対する対応は特殊ではないことがわかります。


最も類似したケースは、2016年11月12日の立川の事故でしょう。この事故は、

・加害者が83歳(当時)という高齢であること
・2人が死亡していること
・アクセルとブレーキの踏み間違いであること
・事故直後に加害者が入院してしまったこと

など、今回の池袋暴走事故に酷似しています。

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立川の事故の写真

この事故でも、加害者は逮捕されませんでした。加害者が入院してしまったため逮捕できず、退院後も高齢で証拠隠滅や逃亡の恐れがないと判断され、任意捜査となりました。
上江洲さんは肋骨や胸骨を折る重傷で入院中。警視庁は事故の重大性を考慮、上江洲さんの退院を待ち、自動車運転処罰法違反(過失致死)容疑で逮捕の方針だったが、高齢で証拠隠滅や逃亡の恐れがないため逮捕を見送り任意捜査へ切り替える方針だ。
産経新聞2016年11月18日
飯塚幸三が事故を起こした際、「飯塚幸三容疑者」ではなく「飯塚幸三さん」と報道されたことも「上級国民だからだ」とネットで話題になりましたが、この立川の事故でも加害者を「上江洲さん」と呼んでおり、実名報道しないメディアも多数ありました。基本的に、マスコミは逮捕も指名手配もされていない人を「容疑者」とは表現しません。(ただし、京アニ事件など、あまりにも大きい事件の場合には例外あり)

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(↑佐々木倫子(2013年)『チャンネルはそのまま!』第6巻、小学館)


つまり、立川の事故と池袋の事故で警察は全く同じ対応をしているわけです。飯塚幸三が特別扱いされたわけではないことがわかります。


飯塚幸三の書類送検まで7か月かかったことも「上級国民だから野放しになってるんだ」と言っている人が大勢いましたが、立川の事故では以下のような経緯をたどりました。
2016年11月12日:事故発生
  ↓(10か月)
2017年9月8日:書類送検
  ↓(6カ月)
2018年3月20日:在宅起訴
  ↓(2カ月)
2018年5月30日:地裁判決(禁固2年の実刑判決)
これを見れば分かる通り、立川の事故でも、加害者は逮捕されず、書類送検まで10か月、さらに在宅起訴まで6か月かかっています。起訴まで1年2か月もかかったわけですね。飯塚幸三の場合は、事故から書類送検まで7か月ですから、この事故と比べても、遅いわけではないことがわかります。


在宅起訴となった他の交通死亡事故を見ても、大体これぐらいの時間がかかっています。
兵庫県川西市の過失運転致死(死傷者5人、加害者は52歳)

2017年10月21日:事故発生
 ↓(6カ月)
2018年4月23日:書類送検
 ↓(8カ月)
2018年12月19日:在宅起訴
 ↓
2019年7月2日:禁固2年執行猶予3年の有罪判決

(1か月間1日も休みなしで働かされ、残業229時間もの過労のために起きた居眠り運転だということで執行猶予が付いた)
静岡県藤枝市の危険運転致死傷(死亡1人、加害者は79歳)

2018年6月20日:事故発生
 ↓(5か月)
2018年11月:書類送検
 ↓(5か月)
2019年4月24日:在宅起訴
山梨県笛吹市の危険運転致死傷(3人死傷、加害者は71歳)

2018年5月10日:事故発生
 ↓(11か月)
2019年6月5日:書類送検
 ↓(3か月)
2019年9月24日:在宅起訴
山梨県笛吹市の事故では在宅起訴まで1年2か月、兵庫県川西市の事故では1年4か月もかかっています。


飯塚幸三は、事故から書類送検まで7か月。そりゃあ絶対的に見れば遅いんですが、相対的に見れば特別遅くないことがわかります。「飯塚幸三は『上級国民』だから野放しにされてる」なんてわけではないことがわかりますね。


早く結論が出てほしいのは当然ではありますが、書類送検や在宅起訴までの時間は、早いか遅いかでしかありません。書類送検や在宅起訴までの時間は、判決には関係ありません。判決を出すのは裁判所です。


(中には高齢者でも前橋市の事故のように逮捕→勾留になったケースもあるが、前橋市の場合は認知症の疑いから鑑定留置となっている)

不当な逮捕をなくすためには、普段から逮捕の原則を警察に守らせる社会づくりが必要である。


今回の件では、「逮捕されない」=「無罪放免」みたいに勘違いしている人が非常に多かったように思います。刑事ドラマなどで、逮捕のシーンで「一件落着」みたいになるので、そのような勘違いが横行しているのかもしれません。


しかし、しつこいようですが、逮捕は刑罰ではありませんし、起訴の必要条件でもありません。逮捕とは、あくまで証拠隠滅や逃亡を防ぐための措置です。逮捕は起訴の必要条件ではないのですから。


日本では、時に不必要と思える逮捕や長期勾留があり、ついついそれが普通だと勘違いしがちですが、先に見た通り、高齢者の過失運転致死は逮捕されなかったり、逮捕されたとしてもすぐに釈放されて、書類送検→在宅起訴となるケースは珍しくありません。簡単に言うと、証拠隠滅や逃亡の恐れもなく、取り調べもできているため、今更飯塚幸三を逮捕する必要性がないのです。たとえ被疑者であろうと、逮捕の必要がないのに逮捕することは人権の観点から認められず、仮に警察が逮捕状を請求したり勾留を請求したりしても、裁判所は認めないことでしょう。


ほぼ類似の経緯をたどった立川の事故がさほどの注目もされなかったのに対し、池袋の事故がこれほどまでに注目を浴びるというのは、「上級国民」というパワーワードに引っ張られて、一種の集団心理が働いているように思えてなりません。


本来、証拠隠滅や逃走の恐れがなければ逮捕・勾留はされないはずなのに、「悪い奴は逮捕しろ!」という風潮が強まると、当然不必要な逮捕や勾留が増え、そうなれば、当然無実の罪で捕まえられて勾留されるという恐れも高まります。これは、私たち一人ひとりにとっても、決して他人ごとではありません。


飯塚幸三が冤罪である可能性はほぼゼロですが、冤罪による不当な逮捕や勾留を少しでもなくすためにも、普段から「証拠隠滅や逃走の恐れがなければ逮捕されない」という原則を警察に守らせていく方向に社会を進めていかねばなりません。逆に「逮捕しろ!」という社会になるのは危険なことです。それは、デマや私刑に繋がる恐れもあり、いつか我々にも跳ね返ってくることになるかもしれません。


追記:今逮捕したところで、後から差し引かれるから多分意味ない


これでもどうしても逮捕したい人に言っておくと、今逮捕しても、おそらくほとんど意味ないですよ。なぜなら、今、逮捕→勾留したところで、勾留期間が刑罰から差し引かれるからです。


未決勾留日数の算入というものがありまして、例えば、飯塚幸三を逮捕して、6か月勾留して判決が出て、禁固3年となったとします。すると、裁判官は勾留期間の6か月間を差し引いて、禁固2年6か月とすることができるのです(※必須ではない)。


とまあ、今、飯塚幸三を逮捕、勾留したところで、その分差し引かれたら、結局は同じことです。


在宅起訴の場合、事件から判決まで本当にえらい時間がかかるので、大きな問題だとは思いますが、今のところ警察の対応でおかしいと言えることはないと思いますし、いまさら逮捕する理由がありませんし、逮捕したとしても、勾留期間が刑から差し引かれ、多分ほとんど意味ないことになると思います。


立川の例を見ると、同じように実刑判決になるんじゃないかと思いますが、とはいえ、世の中にはひき逃げ死亡事故で書類送検されたのに不起訴になった件も存在しますので(検察は理由を明らかにしていない)、こればかりは今後の経緯を見守る必要があります。

追記2:書類送検は処分じゃないよ


本当に、「書類送検=無罪放免」だと思ってる人って多いのね…。

改めて言っておきますけど、書類送検って、送検時点で身柄を拘束していないだけのことですからね…。書類送検は事件を取り扱う主体が警察から検察へ移る手続であって、それ自体は処分でも何でもなく、検察が下す処分や、裁判の結果には、直接関係ありませんからね…。

早い話が、「知らないことは、発言する前に調べろ」ってことですね。

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