<ざっくり言うと>
- 黒川検事長の定年延長(勤務延長)は違法行為である。
- 検察庁法改正案は、その違法行為をそのまま制度化してしまおうというものである。
- 検察官の定年延長(勤務延長)は検察への官邸の介入を招く。
- これは国家の法治主義まで揺るがす大問題である。

↑国民に自粛を呼びかけながら、緊急時に不要不急の法律を強行しようとする男
これまでの検察庁法改正案関連記事
目次「#検察庁法改正案に抗議します」のツイートが600万件以上投稿されたらしく、大きな話題になっています。それに伴い、「歌手やってて知らないかもしれないけど…」とか「分かって書いてますか?」とか言ってくるカウンター的な動きも起きています。私に言わせれば、そのカウンター的な書き込みこそ、わかって書いてないだろ、と思うわけですが。
とはいえ、今回の改正案(改悪案)で、いろいろ誤解が生じているのは事実だと思うので、これまで書いた記事と重複しまくる内容ですが、何が問題なのかまとめてしまいましょう。これであなたも検察庁法改正案の問題点がわかる! 分かってない奴らにはこの記事をコピペしてやってください。
2つの「定年延長」を分けて考えろ!
今回騒がれている検察官の「定年延長」には2つの意味があり、この2つを分けて考えないと誤解が生じます。
A)検察官全員の定年を63歳から65歳に引き上げる。(定年引上げ)
B)内閣が必要と認めた場合に、定年を迎えたものでも最長3年間引き続き勤務に当たらせることができる。(勤務延長)
Aは検察官全体の定年の話で、さほど大きな問題ではありません。問題になっているのはBの方で、これは検察官全員ではなく、内閣が必要と認めた個人の定年を最長3年間引き延ばせるというものです。つまり、65歳が定年なら、最長で68歳まで勤務させることができるというものです。
Aのほうは「定年引上げ」Bの方は「勤務延長」などと呼んで区別するほうがいいんでしょうが、メディアでもAもBもどちらも「定年延長」という言葉で呼ばれてしまっているので、仕方がないのでここでは「定年延長A(定年引上げ)」「定年延長B(勤務延長)」と呼ぶことにします。
高橋洋一にしろ、加藤孝明にしろ、和田政宗にしろ、法案擁護派には定年延長A(定年引上げ)のほうだけ言及して誤魔化している連中が大勢いますが、問題は定年延長B(勤務延長)のほうです。
(より正確に言うと、今回の法改正案では「役職定年制」という言い方になるんですが、用語が増えすぎて面倒なので「定年延長B(勤務延長)」とします)
検察官の勤務延長は違法
国家公務員の勤務延長については、国家公務員法第81条の3で規定されています。その人が退職したら仕事が回らなくなるような状況の時に、定年(60歳)後も、最長3年、勤務を延長することができるというものです。
しかし、この規定は検察官には適応されないということになっていました。それは立法当時の想定問答集からも、実際の国会答弁からも明らかです。もともと、特別法であり検察庁法が一般法である国家公務員法よりも優先されるのは当たり前ですしね。(特別法は一般法より優先される)
斧政府委員なぜこのようなことになっているかというと、総理大臣をも起訴する権限を持つ検察は、他の公務員以上に、政治的中立性・独立性が強く求められるからです。もしも内閣が「こいつは自分たちに都合がいい」と思った人物の定年を延長することができたら、そのような人物が長期にわたり権力を持ったり、定年延長をしてもらいたいがために内閣におべっかを使う忖度検察官が現れたりする恐れがあります。そのような可能性をなくすために、検察官の勤務延長は認められいなかったのです。
検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。
第94回国会 衆議院 内閣委員会 第10号 昭和56年4月28日
つまり、内閣が国家公務員法の勤務延長規定を検察官に適応して、その定年を延長することは違法なのです(検察官には、定年延長B(勤務延長)は禁止されている)。ここを理解しておかないと話にならないので、しっかり理解しておいてください。内閣が検察官の定年を延長(勤務延長)することは違法です。
黒川検事長の勤務延長という違法行為を行った安倍政権
上述のとおり、検察官の定年を延長(勤務延長)することは違法なのですが、今年の1月31日、安倍政権はその違法行為を実行に移しました。「官邸の守護神」とまで言われるほど安倍政権に近いとされる黒川弘務検事長の勤務を延長したのです。
本来黒川氏は今年2月に定年退職するはずだったのですが、それを半年間延長しました。どうして黒川氏の定年を半年間延長する必要があったのか、安倍政権はその理由を全く説明していません。今年7月に現在の検事総長が退職する見込みなので、この勤務延長により、黒川検事長が検事総長に昇格する可能性が突如浮上したわけです。(検事長の定年は63歳だが、検事総長の定年は65歳なので、7月に黒川氏が検事総長に昇格した場合、あと約2年間追加で勤務できることになる) ここまでのことは、下のビデオの解説が分かりやすいかと思います。
しかし、上述のとおり、国家公務員法の勤務延長規定は検察官には適応されないので、これは明白な違法行為です。そのことを指摘された安倍政権は、突如「実は法解釈の変更を行っていました」と言い出しました。法律の解釈変更を行ったから合法なんだ、という理屈ですね。
(「解釈変更を行っていた」と言い出すまでの経過も、実に嘘と出鱈目だらけなのですが、長くなるので省きます。詳しく知りたい方はこちらやこちらの記事をご参照ください)
「法解釈の変更を行ったからセーフ!」なんて、とんでもない理屈です。立法時点での立法の意図が明確になっているにもかかわらず、それを時の政権が勝手に「今日からこの法律はこういう解釈ってことにします」なんてことが可能になったら、立法府の存在意義はなんなんですか? こんなことでは、昨日の合法が今日の違法に、今日の違法が明日の合法になってしまいます。法的安定性を破壊するとてつもない出鱈目です。
安倍政権はお得意の「閣議決定」により、法治国家体制をぶっ壊してまで、自分に都合のいい検事長の定年を延長するという違法行為を行ったのです。違法なんですから、当然本来これはすぐに撤回すべきことで、様々な法律団体や、もちろん検察内部からも批判が巻き起こりました。あまりのひどさに、普段安倍政権の擁護をしている産経新聞さえ批判に回ったほどです。(↓この産経記事は珍しく分かりやすく問題点が指摘してあるので一読の価値あり)
ところが、安倍政権は、この違法行為を撤回するどころか、このまま正式に制度化しようと動き出しました。これが今回の検察庁法改正案です。
違法行為を制度化することで誤魔化そうとする卑怯な安倍政権
前述のとおり、黒川検事長の定年延長(勤務延長)は明らかな違法行為です。しかし、安倍政権は、決してそれが違法であると認めず、「法解釈の変更を行ったんです」と言い出したわけです。これまで「検察官には勤務延長は適応されない」とされてきたのを「検察官にも勤務延長が適応される」と言うことにしてしまった以上、法改正の際にはそう明記しないと不自然です。
今回の検察庁法改正案では、これまで認められてこなかった検察官の勤務延長を可能にしようとしているのですが、それは黒川検事長の勤務延長の後追いなのです。この事実は、昨年11月の時点では検察官の勤務延長について全く触れられていなかったのが、黒川検事長の勤務延長が問題になった後に突如法案に加えられたことからもわかります。
内閣法制局の内部資料にも、黒川検事長の勤務延長の後に、突如勤務延長(定年延長B)を法案に盛り込んだことがはっきりと記されています。「検察庁法改正案が、黒川検事長の勤務延長の違法を誤魔化すため改変された証拠」の内閣法制局資料。
— 小西ひろゆき (参議院議員) (@konishihiroyuki) May 10, 2020
昨年、内閣法制局で審査終了していた法案には勤務延長の条文は全く無かった。
しかし、黒川氏の解釈変更と一緒に「全検察官の勤務延長の条文」が追加されている。#検察庁法改正案に抗議します pic.twitter.com/Cnl6ItRX8O

もしも検察官にも勤務延長制度を適応できるようにしたいのであれば、まずは現行法で違法である黒川検事長の勤務延長を撤回したうえで、改めて法案を提出するのが筋です。
ところが、安倍政権は、まず違法行為を「解釈変更」で押し通し、そのあとでその違法行為を制度化しようとしているのです。自分たちの違法行為を撤回するどころか、そのまま正式な法律として成立させてしまうというのは、もはや法治国家の政府の所業ではありません。この検察庁法改正案は、日本の法治主義を破壊する行為と言っても過言ではないのです。
検察官の政治的中立性・独立性を脅かす法改悪
さらに、上述のとおり、国家公務員には適応される勤務延長制度が検察官には適応されないとされてきたのは、検察官には政治的中立性・独立性が強く求められるからです。
検察官の政治的中立性・独立性を守るために、わざわざ「検察官には適応されない」とされてきた制度を検察官にも適応されることにしてしまおうとしているのですから、検察官の政治的中立性・独立性が脅かされる恐れがあることは明白です。検察が政府に忖度するような機関になり果てる危険性を孕んだ、法治国家として大変に危険な法改正と言わざるを得ません。
今回の法改正の誤解と正しい理解
今回の法改正が、日本の法治主義さえ破壊しかねない大変に危険なものであることは上述のとおりですが、反対派にも誤解している人が少なからずいるように思われるので、そこは訂正しておきたいと思います。
ツイッターで拡散したこの画像ですが、一点大きな間違いがあります。

それは、黒川検事長の検事長の定年延長や検事総長就任が、この法律で決まるかのように書いてあることです。ここは確かに間違いです。
なぜなら、この法律の成立如何にかかわらず、違法な閣議決定によって、すでに黒川検事長の定年延長は決定してしまっているからです。
また、黒川氏の検事総長就任についても、この法律の成立如何にかかわらず、違法な閣議決定によって、すでに黒川氏の検事総長就任の道は開けてしまっているのです。
現実は図よりもさらに悪いんです。この図はもうとっくに成立しちゃってるんですよ。これを恒久的に制度化してしまおうってのが今回の法案ですからね。ちなみに、この図を最初に投稿した人は、修正版を投稿しています。
↓修正版

今回の法律が通っても、施行は2022年4月なので、黒川氏の勤務延長(定年延長B)や検事総長就任には直接関係ありません。今回の法律は、国家公務員の定年延長にかこつけて、違法な閣議決定をそのまま制度化して誤魔化してしまおうというものだという理解が正しいでしょう。
高橋洋一のように、「黒川検事長の定年延長とは関係ない」とか言って法案を擁護している人がいますが、黒川検事長だけでも問題なのに、それを明文化して恒久的に制度化してしまおうというのですから、さらにとんでもないことです。
勤務延長によって政権に都合のいい検察人事が可能になる
安倍政権はこれまでも人事を握って好き勝手行ってきました。安倍政権は2014年に内閣人事局というものを作り、官邸が官僚の人事を掌握しました。それにより、官邸におべっかを使った者が出世できるというシステムが確立してしまいました。福田元首相も、安倍晋三が内閣人事局を作ったことについて、このように痛烈に批判しています。

福田康夫元首相は二日、東京都内で共同通信のインタビューに応じ、学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画や「森友学園」への国有地払い下げなどを踏まえ、安倍政権下の「政と官」の関係を批判した。「各省庁の中堅以上の幹部は皆、官邸(の顔色)を見て仕事をしている。恥ずかしく、国家の破滅に近づいている」と述べた。二〇一四年に発足した内閣人事局に関し「政治家が人事をやってはいけない。安倍内閣最大の失敗だ」との認識を示した。内閣人事局のせいで「国家の破滅に近づいている」とまで痛烈に批判していますが、その典型が財務省の公文書改竄や厚労省のデータ捏造でしょう。能力ではなく政権にすり寄れば出世できるとなれば、官僚は政権にすり寄るようになります。その政権が潰れると、これまですり寄っていた自分の出世もなくなってしまうので、その政権に都合の悪いことは必死に隠そうとして、改竄や捏造まで行ってしまう。
中央省庁の公務員の姿勢について「官邸の言うことを聞こうと、忖度(そんたく)以上のことをしようとして、すり寄る人もいる。能力のない人が偉くなっており、むちゃくちゃだ」と指摘。「自民党がつぶれる時は、役所も一緒につぶれる。自殺行為だ」とも述べた。
(2017年8月3日東京新聞)
人事を握る、たったこれだけのことで、自ら命令しなくても官僚が勝手に忖度して政権に都合のいいように嘘でも改竄でも捏造でも何でもしてくれる。問題が起きたら「命令なんかしていません。官僚が勝手にやったことです」で責任を丸投げできる。まさに最強の制度です。
今回の検察庁法改正案で、検察人事が思いのままというわけではありませんが、現実に黒川検事長の定年は延長され(勤務延長)、本来2月にやめるはずだったのに、検事総長になる可能性が出てきたのです。本当に検事総長になるかはまだわかりませんが、可能になったことは事実であり、黒川氏の存在は、定年延長B(勤務延長)が可能になれば、官邸が検察人事に介入できるという明確な証拠です。
政権に都合のいい人物だと定年を延長(勤務延長)してもらえるとなれば、政権にすり寄る人間が出てくるだろうことは想像に難くありません。その政権に都合のいい人物が、勤務延長によって検事総長などに長くとどまることになれば、当然のこと、政権に都合のいい人物がさらに出世しやすくなります。直接的に命令しなくても、政権に都合のいい検察人事が可能になるのです。
これをさせないために、検察官には勤務延長が適応されてこなかったのに、今安倍政権は40年間守られてきたこの制度を、国民が求めてもいないのに自己都合で変えようとしています。まさに日本の法治国家としての体制が危機に瀕していると言って過言ではない事態に我々は置かれているのです。
いったい誰のための法案か
こんな不要不急の安倍政権の自己都合の法改正を緊急事態宣言中に強行する安倍政権。彼らが国民のための政権なのか、自分たちの自己都合を実現するための政権なのか、誰の目にも明らかなことだと思います。
これでも検察庁法改正案を擁護しようというのであれば、以下の質問に答えてみてください。
- わざわざ「検察官には適応されない」とされてきた勤務延長制度を、検察官にも認めるようにしなければならない理由
- 40年間守られてきたこの制度を破壊しても、検察官の政治的中立性・独立性を担保できると考えるその理由
- 法改正前に黒川検事長の勤務を延長したことの合法性
- 明確な立法意思を、一時の政権が閣議決定で自由に変更しても、法治国家としての法的安定性に問題がないと考える理由
- 国民が求めてもいない法案を、コロナでの緊急事態宣言中に審議を強行しなければならない理由
以上の5点に明確に答えられないのであれば、この法案に決して賛成することも、「興味ありません」などと言って素通りすることもすべきではありません。





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コメント
今回の検察庁法改正案における動きで安倍政権は閣議決定を恣意的に利用するという特徴があると同時に「ぼく、わるくないもん!」で済むような幼児性では済まず、人事権をちらつかせて違法な法的根拠を後付けで密かに付け加えるなど、相当悪質性が高いなと感じました。
桜を見る会ではズタボロでしたが、それは政治資金規正法や公職選挙法などほとんど安倍晋三個人に帰属する問題なので官僚が関われる余地が少なかったためではないかと。
定年延長と勤務延長とは別という観点はツイッター上でもだいぶ浸透してきているようで、この点だけでも明確になればおかしな点が次々出てくるので倫理的にはとても法案通過などあり得ないのですが、数は持ってますしこれまでの前科からして強行採決はあるでしょう。
責任転嫁だけはスピード感をもってやるなんて政権は御免被ります。
(コメントが2件に分かれます)
管理人様の記事に異論はありませんし、国民を馬鹿にした政権の態度には私も憤りを感じます。一方で、本件については①本件の根幹をなす絶対的な問題と②安倍政権の拙さに起因する問題と③感情論・状況証拠的な問題とに分けて考える必要があると思います。
例えば「黒川が官邸の守護神」という点は、腹立たしいことではありますが③にあたると思います。
また「口頭決裁も正式な決裁」は、大いに問題はあるものの、厳密に考えたときに「そもそも法解釈の変更をする際は決裁を経なければならないきまりがあるのか」という点を(私が)確認できていないので、(現状の私の中では)安倍政権のやり方が"巧くない"だけの②になってしまうのかなと思っております。答弁の矛盾についても、ウソつきは確定だし、そんな輩が国家運営を担っているという事実は信じがたいものの、②にあたるのかなと思っています。
つまり、③はもちろん、「もし安倍政権が巧妙に立ち回っていたら発生しなかった問題」である②を削ぎ落した上で、それでもなお残る①が何であるかを見極める必要があるのかなと考えています。
もちろん②も、そもそもそれ単体で大問題なものばかりですし、こんな大問題を続発させる連中に政治を任せたくないという思いは連日ストップ高なのですが、この問題を考える上ではいったん除外しないと論点が定まらないような気もします。
私がいま思う①の要素は、「解釈の変更という手段によって特別法の優先を覆せるのか」という点と「自分たちを起訴する権限のある組織の人事権を内閣が握ることになる」という点で、ぜひ今後は(特に野党議員には)これらに絞って徹底的に追及してもらいたい。②はともかく③で質疑の時間を無駄にするのは本当にやめてほしいというのが正直な感想です。
その上で、いまの問題からは少し離れてしまうのですが、今回の法改悪とは関係なく、そもそも検察庁が行政組織として(最終的には)内閣の下に属しているというのが問題だと思い至りました。
Wikipediaの検察庁の項目を見た程度ですが、「国家公務員法には「職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」とあることから、法的には検事総長は法務大臣の職務命令に重大かつ明白な瑕疵がない限り服従する義務があり、その結果の是非については指揮権を発動した法務大臣が政治的責任として負うことになる。」とあり、この現状の制度的な距離がそもそも不適切なのではないかと思ってしまいます。
諸外国での検察の独立性がどのようになっているのかも勉強してみたいと思った次第です。
取り留めなくただの独り言のようになってしまいましたが、これからも応援しています。
今現在、河合前法相の立件が視野に入れられていますが、この法改正がまかり通ろうものならばこの件も不問になりうるのではと思うと、この法改正が恐ろしいということが理解できるかと思います。
そうしなかったところから、自民党が本当にやりたかったのがBの方であるというのがよくわかります。
ここで思いついた句を二つほど。
「自民党 検察人事を 支配したい💀」
「暴力団 警察人事を 支配したい💀」